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ブラックバイト③

2016.12.29.Thu.02:18
社労士

労働基準広報の2016年4月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の2つの質問に答えています。

① 当社は飲食業の店舗を全国展開している企業です。大学生等のアルバイトも多数雇用しております。今回ある店舗で、社員の調理長が学生アルバイトに対してパワハラをしたということで問題となり、労働局のあっせんに持ち込まれています。調理長は自分が見込んだ学生アルバイトを調理師として一人前になるように教育したと言っています。ただ、そのやり方が、「ばか」「ふざけんな」といった罵詈雑言を浴びせたり、また時には野菜の切れ端を投げつけたりしたということです。こんな言動を繰り返された学生アルバイトはパニック障害を発症して学業にも支障をきたすことになったことから、友人が心配して本人を連れて総合労働相談コーナーに行ったということです。
また、現在、病院の治療費については労災請求をされています。
今回、調理長は自分が受けてきた調理師としての教育を行ったのだから問題はないとして店長も特段パワハラについての意識をしなかったため、問題を大きくしてしまったと思われます。
まだ、労働局のあっせんや労災認定の結論は出ていませんが、各店舗にパワハラの防止やパワハラに起因した精神障害の労災についての周知徹底を本社として始めなければならないと思っております。その時の留意点をご教授ください。

② 当社は、○○を拠点としてディスカウントストア―を数十店舗経営している企業です。深夜も営業しており、交替要員として学生アルバイトも多く使用しております。昨今景気がよくなったせいか、人手不足の状態が続いています。特に学生アルバイトについは、思うように確保できなくなってきています。また、せっかく雇った学生アルバイトも当社より良い条件のところがあればすぐに辞めていき困っています。そこで、できたら、辞める学生アルバイトに対して「新しいアルバイトを紹介するまでは、辞めることはできない。もし、辞めるのであれば新たに人を雇うときに必要な経費をアルバイト代から差し引く」というルールをつくりたいと思いますが、このようなルールを作るとことは、可能でしょうか?


このうち、今回は、②の質問の箇所を紹介します。

*有期雇用契約の途中解約


社労士 

 本件の場合、まず、学生アルバイトと会社とでどのような労働契約を締結していたか問題となります。学生アルバイトの場合、有期契約の場合が多いのでしょうから、それを前提として考えることにします。就業規則に、契約期間途中であっても14日の予告期間を置けば退職できる旨の定めがある場合には、それに従って退職できることになります。しかし、有期の労働契約の場合、就業規則や労働契約で特段の定めがない場合、民法では「やむを得ない事由」がある場合には「直ちに契約の解除をすることができる」とあります(628条)。これは、有期の雇用契約の場合、契約で特段の定めがないときには、契約期間の途中で解雇をすることもできないし、労働者の側から退職することもできないという意味ですね。


弁護士  

そうです。民法では、有期の雇用契約を契約期間中に解除するには、使用者側の解雇であっても、労働者側の退職であっても、「やむを得ない事由」を必要とするのです。使用者側からする解雇については労働契約法17条1項が適用され、これは強行規定ですので、「やむを得ない事由」がなくても解雇できるとの就業規則の規定があってもそれは無効になりますが、労働者側からの退職に関する側面では民法628条は任意規定です(ただし、反対説あり)ので、就業規則や労働契約で、やむを得ない事由がなくても予告期間を置きさえすれば退職が可能となっていれば、その就業規則が適用されます。


社労士
  

それでは、「やむを得ない事由」というのはどのようなものですか?


弁護士 

 労働者側からの退職について言えば、病気で働けなくなった、家族の介護をしなければならなくなったといった場合です。使用者が生命身体に危険を及ぼすような労働をさせたとか、賃金を支払わない場合もそうでしょう。先ほどの質問にあったように、激しい罵倒を浴びせられたと言ったような場合も「やむを得ない事由」にあたります。ただ、他に良い条件のアルバイト先があるために期間途中で退職するということでは、「やむを得ない事由」にはあたりません。


 社労士   

期間を定めて働いている契約の途中で、自分の側の理由で一方的に辞めると、損害賠償責任が発生することがあることになりますが、どの位の賠償が考えられるのですか?


弁護士
   

その場合の賠償額は、残りの期間働かなかったことによって、実際に会社が失った利益ですが、会社は賃金を支払わなくてすんでいるので、その差額は通常はそれほど大きなものではないですね。


*「新しいアルバイトを紹介するまでは、辞めることはできない」というルール


社労士
   

これが、「やむを得ない事由」があっても新しいアルバイトを紹介するまではやめることができないという意味であれば、期間の定めのある雇用契約でも「やむを得ない事由」がある場合には解除することができるとの民法628条に違反しますね。民法628条が労働者側からの退職(辞職)の要件を緩和できるかどうかに関しては強行規定であるか任意規定であるかは見解が分かれていますが、「やむを得ない事由」がある場合であっても退職できないとのルールは無効となります。また、そのようなルールは労働基準法第5条の趣旨にも反することになります。


弁護士   

退職を思いとどまらせるための説得が禁止されているわけではありませんが、このルールを押し付けて辞めさせないとなれば、それが不法行為となって損害賠償請求権が発生する場合もあると思います。


*「辞めるのであれば新たに人を雇うための経費をアルバイト代から差し引く」というルール


社労士   

このようなルールは、労働基準法第24条の全額払いの原則に反することになると思います。辞める前に既に働いた分の給与は、会社は全額支払わなければなりません。


弁護士  

 そうですね。このようなルールを設けることは、今まさに問題となっているブラックバイトということになってしまうと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

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ブラックバイト②

2016.12.29.Thu.02:11
社労士

労働基準広報の2016年3月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の3つの質問に答えています。

① アパレルメーカーの販売部門の統括責任者です。当社は販売部門の社員に社員割引で自社製品を買わせて、それを着用して当社の製品販売を行わせております。また、大学生等のアルバイトも多いのですが、同様に製品の買い取りをさせています。今回ある店舗で、社員の店長が学生アルバイトに買い取りノルマを課して無理やり高額の製品を買わせたことでトラブルとなりました。昨今ブラックバイトが問題となっていて、その一形態に自社製品を無理に買わせるということがありました。自腹購入は、社員割引があるので、喜んでいる社員もいますが、学生アルバイトに自社製品の購入させるのをやめた方がよいのでしょうか?自腹購入はどこまでであれば許されるのか、ご教授ください。

② 当社は比較的高級な和食レストランのチェーン店を運営しております。各店舗では、学生アルバイトも多く働いております。食器も高価なものが多いので、取扱いに気を付けるように注意をしておりますが、よく破損します。少し注意をしてもらうためにも、これから5枚以上割ったら5000円の「罰金」を支払ってもらうようなルールを作りたいと思います。昨今学生アルバイトの労働条件については、取り締まりが厳しくなったと聞いております。このようなルールをつくることは問題となるのでしょうか?

③ 当社は、学習塾を複数経営しております。塾では集団指導も個別指導も実施しております。先日、その中の一つの塾から、複数の学生アルバイトと賃金の対象となる労働時間をめぐってトラブルが発生しているとの連絡を受けました。具体的には、授業記録を作成した時間や事前の約束なく突然訪ねてきた父母への対応時間分の賃金の支払いをしなかったというものです。講師の労務管理については、本社も指導していますが、基本的には塾長に任せております。今後、本社から、他の塾長たちも含めて賃金やその前提となる労働時間についての指導をしなければと思っております。その際に、留意すべきことをご教授ください。


このうち、今回は、①の質問の箇所を紹介します。

*全額払いの原則


社労士 


 ご質問の自腹購入ですが、学生アルバイトが、自らの本来の自由意思で購入する場合には問題にならないと思いますが、無理やり買わされたとなれば問題ですし、労働者の本来の自由な意思に基づかないで、その代金を給与から差し引くことは、労基法24条の全額払いの原則に反することになりますね。


弁護士

 労働基準法24条は、賃金の全額払いを定めています。これは、仮に労働者に使用者に支払うべき債務があったとしても、使用者側から賃金と相殺してはいけないということでもあります(関西精機事件、最二小判昭31.11.2民集10巻11号1413頁、日本勧業経済界事件、最大判昭36.5.31民集15巻5号1482頁)。労働者の生活の基盤である賃金を確実に受給させることが全額払いの原則の趣旨だからです。そうでなければ、労働者が支払うべき義務があるかどうか争いがある場合にまで、使用者が勝手に賃金から控除して強制的に支払わせることが可能になってしまうからです。


*労働者の自由意思に基づく控除


社労士 


 賃金からの控除が本来の労働者の自由意思に基づくものであれば許容されていますね。


弁護士 

 労働者が使用者に負担する債務を賃金から控除することは、労働者と使用者の合意があれば可能との考え方もありますが、労使の力関係上、労働者がやむなく合意をするという場合もあります。そこで、労働者との合意に基づく相殺の場合、単に労働者との合意があっただけで賃金からの控除が承認されるわけではなく、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」にのみ許容され、その「同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ客観的に行われなければならない」とされています(日新製鋼事件、最二小判平2.11.26労働判例584号6頁)。なお、この判例については、全額払いを定める労基法に違反する以上は、いくら労働者の合意があっても、一方的控除はできないとの有力な反対説があります(菅野和夫『労働法第10版』305頁)。ご質問の事例では、判例に従えば労働者の自由意思による合意があれば、賃金からの差し引きは可能となりますが、「買い取りノルマを課して無理やり高額の製品を買わせた」ということであれば、そもそもその購入契約の効力が問題となりますし、賃金からの差し引きは、労基法24条違反となる可能性が高いでしょう。


*自社製品の購入の問題


社労士 

 「販売部門の社員に社員割引で自社製品を買わせて、それを着用して当社の製品販売を行わせ」ている点はどうですか?


弁護士  

自社製品を労働者に買わせていることについてですが、さきほどの相殺の場合と同様の枠組みが適用されると思います。つまり、労働者の本来の自由意思が要求され、「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要だということです。接客には自社製品を着用することが義務付けられているのであれば、その購入義務が労働者にあるということですが、そうなると、自社製品の買い取りが労働者の本来の自由意思に基づくものかどうかが問題となります。制服とは異なり、当該商品に汎用性があること(権利の側面でも実際の側面でも職場外での着用も可能であること)、社員割引で安価に取得できること、もちろん返還の義務もないことなどから、あらかじめこれを合意して入社をしたのであれば、自由意思に基づくことを認定する合理的客観的状況が一応はあるとはいえるでしょう。しかし、それが賃金のかなりの部分を占めてしまい、労働者の経済生活を脅かすようなことがあれば、やはり自由意思に基づくものかどうかに疑問が出てきます。一定のノルマを課して、それに達しない労働者に購入を義務付ける旨の就業規則規定があったとすれば、それは合理性を欠き、無効になると思われます(労契法7条)。また、これを定める労働契約条項があっても、その効力には疑問があります。これらのノルマを課してそれに達しない労働者に購入を義務付ける条項や規定は、本来使用者が負担すべきリスクを労働者に転嫁するものだからです。


*アルバイトの場合


社労士 

アルバイトの場合にはどうですか?


弁護士 

アルバイトの場合も枠組みとしては同様と思います。自社製品を安く買えるので喜んでいるアルバイトがいるかもしれませんが、逆に必要もない商品を無理やり買わされて困っているアルバイトもいるのではないでしょうか。ですから、使用者の圧力の下で無理やり買わせることは問題です。例えば、「自社製品を買わない」ことを理由とする解雇はできないでしょう。そうすると、「買わなければ解雇する」と言って無理やり買わせた場合、購入の意思表示が詐欺または脅迫によるものとなる可能性もあります(民法96条)。また、アルバイトであれば、賃金が正社員と比べて少額でしょうから、賃金のうちどれだけの部分が自社製品の購入に充てられるかもまた、「自由な意思に基づく」合意かどうかを判断する要素でもあるでしょう。


社労士 

自腹購入が全面的に否定されるわけではありませんが、労働者の自由な意思とこれを根拠づける合理的客観的事情が必要ということですね。学生アルバイトに自社製品の購入を義務付けることをどうするかについては、上記のリスクを十分踏まえて慎重に判断することが必要ですね。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和






ブラックバイト①

2016.12.29.Thu.01:54
社労士

労働基準広報の2016年2月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の3つの質問に答えています。

① 自社ブランドの商品販売で全国展開している企業の労務担当をしております。
昨今、ブラックバイトが問題となっていて、厚生労働省も大学生等にアルバイトに関する調査を実施したと聞いております。当社はアルバイトを多く雇用しているので、このような問題のある雇用と指摘されないように気を付けなければと思っています。そこで、そもそも、ブラックバイトとはどのようなことを言うのかご教授ください。

② 当社は各地のショッピングモールにテナントとして入り当社の製品を販売しております。テナントでは、アルバイトも多いのですが、時々労務トラブルが発生しており、本社から指導に入ることもあります。
厚生労働省が実施した「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査」の結果では、「労働条件の明示」や「明示された労働条件」に問題があったものが多かったと聞いております。今後、各テナントの責任者を指導していきたいと思いますが、労働条件の明示に係る問題についてご教授ください。

③ 大学の学生課で学生の相談にのっております。
学生の相談の中に、アルバイト先でのシフトの強要により、休むこともできないことから過重労働になり、疲労により大学の授業が受けられなくなるケースもあります。
また、それを断ると一方的にシフトを削るという嫌がらせもされるということです。
シフトについては、問題も多いようですので、その点ご教授ください。

このうち、今回は、②の質問の箇所を紹介します。


*労働条件の明示


社労士 

 労働基準法第15 条では、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、そのうち労働契約の期間に関する事項、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項、所定労働時間を超える労働の有無に関する事項などは、これを書面により明示しなければならないとされています(労働基準法施行規則5条2項、3項)。
調査結果では、労働条件通知書の有無については、先述のとおりですが、労働基準法第15条で明示が求められている労働条件のうち、書面や口頭で明示された割合が低いものは、年次有給休暇の日数(有無を含む)17.1%、退職に関する事項26.6%、所定時間を超える労働(残業)の有無37.4%、休憩時間47.6%でした。また、賃金については、必要な明示がなされていないものが、 賃金の締日及び支払日について32.5%、 賃金の支払方法(振込か現金払いなど)について29.1%、 賃金額(アルバイト代の単価)について 23.0%がありました。


弁護士  

使用者に明示義務のある労働条件のなかでも、①労働契約の期間、②就業の場所及び従事すべき業務、③始業終業の時刻・休憩時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇など労働時間に関する事項、④賃金の決定・計算・支払の方法・賃金の締切日及び支払の時期などの賃金に関する事項、⑤退職に関する事項は書面による明示が求められます(労規則5条)。また、学生アルバイトの場合、正社員と比べて労働時間が短い(1週間の所定労働時間が通常の労働者よりも短い)ことが多いでしょうから、そのような場合はパートタイム労働法も適用されることが考えられ、⑥昇給、退職手当及び賞与の有無についても書面による明示が必要となります(パートタイム労働法6条1項、同規則2条)。ただ、この⑥については、ファックス、メール(出力により書面化できるもの)でも可能です。このように書面での明示が義務付けられているのは、労働条件があいまいになるのを防ぐためです。


社労士  

 労基法に定める労働条件の明示義務に違反した場合、刑事処罰の規定もあります(労基法121条1号)。労働契約の基本である労働条件、特に労働時間や賃金の明示がないとなると、使用者と労働者の思惑や期待が異なってしまって、トラブルの元になります。ですから、上記①ないし⑥にあたらない事項であっても、できるだけ書面で明示することが望ましいといえるでしょう。


*募集内容と実際の労働条件が異なる場合


社労士  

募集広告で言っていた労働条件と実際の労働条件が異なっていた場合もあります。事務職での募集広告だったのが面接に行って見ると現場作業だったとか、残業はないとの募集だったのに実際には残業があったというような場合があります。また、もらった賃金が募集広告よりも少なかったという場合がありますが、このような場合には民事上はどうなるのでしょうか?


弁護士 

 募集広告で確定的に賃金等の労働条件を提示し、面接その他の機会にもこれと異なる労働条件を提示されないまま就労がなされたという場合、それが労働条件となります。しかし、募集広告と異なる労働条件のある労働契約書や労働条件通知書を提示されてそれを労働者が受け入れた場合には、それが募集広告と異なっていたとしても、労働契約書や労働条件通知書で示されたものが労働条件となると思われます。賃金見込額として求人票に記載されていた金額が実際の賃金と異なっていた場合に差額賃金請求が認められなかった事例があります(八州事件、東京高判昭58.12.19労働判例421号33頁)。ですから、募集広告や求人票の記載がそのまま労働条件となるとは限りません。民事的には、労働契約の締結に際して明示された労働条件で労働契約が成立するということになります。しかし、募集広告や求人票に記載された労働条件について、これに反する特段の条件提示がされなかったという場合には、求人票に記載されたとおりの条件で労働契約が成立したとされることもあります(丸一商店事件、大阪地判平10.10.30労働判例750号29頁)。


社労士  

労働契約の締結にあたっての労働条件明示が重要ということですね。会社から見れば、募集広告や求人票にいったん記載した以上は、その後会社の事情が変更してそれらで示した労働条件を維持できなくなった場合、労働契約締結の段階でちゃんと明示しておかないと、募集広告や求人票での記載に拘束されるリスクがあるということですね。



紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和





 

過労死白書

2016.12.29.Thu.01:26
社労士

労働基準広報の2016年12月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


ですが、過労死白書についての下記の二つの質問に答えています。


① 「過労死白書」がまとまったとのニュースを見ました。一昨年施行された過労死等防止対策推進法に基づく初めての「白書」ということですが、この白書のポイントとそれを踏まえて企業として留意すべきところについて、ご教授ください。


② 当社では、長時間労働を行っている部署があります。
「過労死等防止対策白書」が最近でましたが、その中で「長時間労働の削減のための周知・啓発の実施」の記載中に「平成27 年から月100 時間超の残業を把握したすべての事業場や過労死等を発生させた事業場に対する監督指導を行うこととした。」とされています。この基準からすれば、当社も対象になるのではないかと思います。新聞等を見ると、長時間労働を行っている会社が送検されたという記事もあります。対象になるとどのような監督がされるのでしょうか?

今回は、①の質問の白書のポイントの箇所を紹介します。


*過労死等防止対策白書



社労士  

 ご質問の「過労死白書」というのは、平成28年10月7日に厚生労働省が公表した「平成27年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(以下、「過労死等防止対策白書」)」のことですね。これは、同日、政府が、過労死等防止対策推進法に基づき、閣議決定したものです。


弁護士  

 この「過労死等防止対策白書」は、平成26年に成立・施行された過労死等防止対策推進法(以下「過労死防止法」)の第6条で、「政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならない」と規定されていることから、今回この報告書として白書が策定され、初めての国会報告になるものです。


*過労死等防止対策白書のポイント


弁護士  

今回の白書のポイントはどのようになっていますか?


社労士 

 ポイントは以下の4点と発表されています。
①過労死等防止対策推進法に基づく初の白書
②過労死等防止対策推進法が制定に至るまでの経緯などについて記載
③過労死等の実態を解明するための調査研究(労働者の労働時間だけでなく、生活時間の状況等の労働・社会面からみた調査や、労災認定事案のデータ ベース構築など)など、平成27年度に行われた過労死等防止対策の取組に ついて記載
④過労死等防止対策に取り組む民間団体の活動をコラムとして紹介
  また、内容は、第1章 過労死等の現状 、 第2章 過労死等防止対策推進法の制定 、 第3章 過労死等の防止のための対策に関する大綱の策定、第4章 過労死等の防止のための対策の実施状況 に加えて資料編の順でまとめられています。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和




電通事件最高裁判決

2016.12.29.Thu.00:58

社労士

労働基準広報の2017年1月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


ですが、過労死白書についての下記の質問に答えています。



 ある業界団体の役員をしております。仕事の性質上長時間労働が多い業界ですが、過労死・過労自殺等も会員企業で発生しており、業界全体でこの問題を取り組む必要があるのではないかとの意見も出ております。そこで、過労死に関係することについては注意をしているのですが、平成28年10月7日に過労死等防止対策推進法に基づく初めての「過労死白書」が閣議決定されたということで、これに目を通しました。白書の中で「国が取り組む重点対策」に「啓発」があり、国民に向けた周知・啓発として「過労死等防止対策シンポジウム」を国が開催するとされています。これは毎年11月に開催されるということを知り、平成28年の第3回シンポジウムに参加しました。そこでは、大きく新聞等で報道されている有名企業で働いていた娘さんが過労自殺されたお母さんの悲痛なコメントがあり胸を打ちました。この事案は、厚生労働省が強制捜査を行ったことで、業界でも話題に上り、皆注視しているところです。この企業については、過労死のリーデイングケースとなった有名な判例があると聞いております。今後の業界の勉強会でも周知したいので、ご教授ください。また、厚生労働省が今までに増して厳正な対処をしているのはどうしてなのかということもご教授ください。


今回は、「過労死のリーデイングケースとなった有名な判例」について紹介します。


*電通事件最高裁判決


社労士  
 
ご質問で言及されている、娘さんが過労自殺されたお母さんの話は、電通で勤務していた女性の新入社員が昨年12月に長時間労働の結果自殺したという事件で、労基署も今年の9月末に自殺の原因が長時間の過重労働であるとして、労災認定したものです。新聞各紙に報道されました。電通では過去にも過労自殺の問題で裁判がありましたね。


弁護士  

1991年(平成3年)に入社2年目の男性社員が長時間労働が原因となって自殺したことについて遺族が損害賠償請求をした事件がありました。この事件の最高裁判決は、過労自殺について会社の使用者責任(民法715条)を認めた初めての最高裁判決として有名です(電通事件、最2小判平12.3.24労働判例779号13頁)。


*事件の内容

社労士  

どんな事件だったのですか?


弁護士 


 長時間にわたる残業を恒常的に行っていた労働者が、過重な業務負担によってうつ病に罹患し自殺したという事案で、うつ病発症等に関する知見を考慮して、過重な業務とうつ病の罹患、うつ病の罹患と自殺との間に相当因果関係があると判断され、会社に対する損害賠償請求が認められた事例です。


*長時間労働の程度


社労士 

 「長時間労働」といっても、どの程度のものだったのですか?


弁護士 


 判決文によれば、大手広告代理店Y社に平成2年4月に入社した労働者Aは、入社当初から長時間にわたって残業を行うことが恒常的状態でした。この状況は次第に悪化して、深夜早朝まで残業したり徹夜することもあるようになったのですが、Aの上司は、Aが深夜早朝まで残業したり徹夜したりすることのあることに1991年(平成3年)3月ころには気づいており、同じ年の平成3年7月頃にはAの健康状態が悪化していることに気づいていました。しかし、平成3年3月頃に「業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで、Aの業務の量等を適切に調整するための措置を取ることはなく、かえって、同年7月以降は、Aの業務の負担は従前よりも増加することとなりました。その結果、Aは心身ともに疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬ころにはうつ病にり患し、同月27日、うつ病によるうつ状態が深まって、衝動的、突発的に自殺をするに至った」というものです。



最高裁判決までの経過


社労士 

 事件の発生が1991年(平成3年)で最高裁判決が2000年(平成12年)となると、ずいぶんと時間がかかっていますね。


弁護士  

 この事件は、Aの両親X1とX2が、平成5年(1993年)にY会社に対し、民法415条(安全配慮義務違反)または709条(不法行為)と715条(不法行為の使用者責任)を根拠として、Xの死亡による損害賠償請求をしたものですが、第1審の判決が平成8年(東京地判平8.3.28労働判例692号13頁)、控訴審の判決が平成9年(東京高判平9.9.26労働判例724号13頁)です。地裁判決は、過重労働とうつ病のり患、うつ病のり患と自殺との間の因果関係を認め、Aの上司について安全配慮義務違反を内容とする過失を認め、Y会社の使用者責任を認めて、約1億2600万円の支払いをY会社に命じています。これに対してY会社が控訴し(Xも付帯控訴)ました。控訴審も、この判断は維持したのですが、30%の過失相殺の類推適用を認めたのです。


*事件の問題点



社労士  

 そうすると、この事件では、①過重労働と自殺との間の因果関係、②使用者の安全配慮義務(注意義務)、③過失相殺が問題となったということになりますね。


*①過重労働と自殺との因果関係


弁護士 


 そうです。①の過重労働と自殺との因果関係については、地裁、高裁、最高裁とも認めています。最高裁は、「うつ病は、抑うつ、制止等の症状から成る情動性精神障害であり、・・・うつ病にり患した者は、健康なものと比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。」、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状態が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」との一般論を上記の具体的状況に当てはめて労働者Aの過重労働と自殺との間に相当因果関係があると判断した原判決を是認しています。


社労士  

相当因果関係にあると判断したのであれば、労災認定もされていたのではないですか?


弁護士  


この最高裁判決のあった事件では、労災請求がされないまま、民事損害賠償請求訴訟が行われています。当時の労災認定実務が厳しかったために、民事損害賠償請求訴訟を出したのかもしれません。


社労士 

 確かに、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平11.9.14基発544号)が出されたのが平成11年(1999年)ですから、この事案の事件が発生したよりもずっと遅い時期ですね。まだ確たる判断基準のなかった時期です。それに、「故意による負傷、疾病障害若しくは死亡」については保険給付を行わないとの労災保険法12条の2の2第1項の規定について、「業務上の精神障害によって、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」との解釈(基発545号)がされたのは、「判断指針」が出されたのと同じ日の平11年9月14日のことです。


*②使用者の安全配慮義務(注意義務)

弁護士  

それから、この事件で、労働者の遺族は、安全配慮義務違反または使用者責任(民法715条)を法律上の根拠に請求したのですが、裁判所は、地裁、高裁、最高裁ともに、上司の不法行為責任と会社の使用者責任で判断をしています。


社労士  

どうして安全配慮義務違反で認めなかったのですか?


弁護士 

 原告側は、安全配慮義務違反又は使用者責任で損害賠償請求をしているので、どちらかが認められれば、他方は判断する必要がなくなるのです。そこで、裁判所は、不法行為責任(使用者責任)で請求を認めたのです。判断の内容は、次のとおりです。
    「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」との一般論を述べ、Aの上司が、「Aが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らかなったことにつき過失があるとして、一審被告の民法715条に基づく損害賠償責任を肯定した」原審の判断は正当であるとしています。


社労士 

 「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と言っているのは、安全配慮義務と内容は同じではないですか?


弁護士  

そうですね。実質的には安全配慮義務を不法行為における注意義務として表現したものと同じだと思います。


社労士  

労働安全衛生法65条の3は、「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するよう努めなければならない。」と規定しています。この「作業を適切に管理」のなかには、「一連続作業時間と休憩時間の適正化、作業量の適正化等が含まれる。」と解釈されています(労働調査会編『労働安全衛生法の詳解改訂4版』728頁)。この規定は直接的にはこれに違反したからと言って処罰されるような効力を持たない努力義務を定めるものですが、この規定が安全配慮義務や注意義務の内容になっていると読むこともできますね。


弁護士  

そうですね。この規定が安全配慮義務の内容となっていると考えることもできます。


*③過失相殺


社労士  


電通事件最高裁判決の論点③の過失相殺の点ですが、控訴審判決はどのような判断をしたのですか?また、最高裁判決はどう判断したのですか?


弁護士  

控訴審判決は、労働者が「真面目で責任感が強く、几帳面かつ完璧主義で、自ら仕事を抱え込んでやるタイプで、能力を超えて全部自分でしょい込もうとする行動傾向があったものであり、太郎にこのようないわゆるうつ病親和性ないし病前性格が存したこと」と、同居している両親がAの勤務状況や経過つ状況をほぼ把握していたのに、その改善をとるなどの措置をとっていないことなどを根拠として、3割の過失相殺・素因減額を認めました。
     最高裁は、労働者の性格を理由とする減額については、「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。」「労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。」という一般論を述べたうえで、「Aの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったとは認めることはできない」として、Aの性格を理由とする減額をできないと判断しています。


社労士 

 両親の落ち度として控訴審判決が判断した点はどうですか?


弁護士
 

 両親と同居していたとはいえ、両親がAの勤務状況を改善する措置をとり得るとは容易にいうことはできない。」と判断されています。


社労士  

最高裁判決の結論は、過失相殺について判断するために、東京高裁への破棄差戻しとなりましたが、差戻し後はどうなったのですか?


弁護士 

 東京高裁で和解が成立したとのことです。金額は1審判決を大幅に上回るものでした(佐久間大輔『労災・過労死の裁判』193頁)。


社労士  


この電通事件は、過労自殺について、その後の判例をリードする判例であったといえます。


弁護士  

特に、使用者には「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断した点、労働者の性格が個性の多様性の範囲を外れるものでない限りは、素因減額の要素とはならないとの判断は重要だと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和




 
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