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アーク溶接による火災で被災した技能実習生

2014.12.31.Wed.00:54
社労士 

 連載している労働安全衛生広報の12月15日号、「アーク溶接による火災で被災した技能実習生」を取り上げています。事案は、製紙工場の耐震補強工事で外国人技能実習生が行っていたアーク溶接の火玉が2階の床の隙間から1階に落下し、1階の紙ロールに燃え移り火災となり、その技能実習生も煙に巻かれて、火の粉を浴びて火傷した。また、消火にあたった製紙工場の従業員2名も火傷したというものです。
 この中では
 
 *外国人技能実習生
 *アーク溶接による火災
 *労働者死傷病報告
 *災害調査
 *「易燃性」の意味
 *安全配慮義務
 
 等について解説をしてます。 今回は、「易燃性」についての箇所を紹介します。


*易燃性の物の意味

弁護士

 アーク溶接機を用いた溶接作業をした場合、アーク(火花)が散って火災の原因となることがあります。そこで、多量の易燃性の物などがあって火災が生ずるおそれのある場所ではアーク溶接機の使用が禁じられています(労働安全衛生規則279条1項)。これを避けるためには、作業をしている場所や作業場所の下部を防炎シートで覆うなどの養生をして、溶接場所を易燃物から隔離して「火災の生ずるおそれ」のない場所とする必要があります。
労安衛則279条1項の「易燃性の物」とは、単なる可燃性の物という意味ではなく、可燃性の物のうち、火花を発して点火源となるおそれのある機械を使用すると、火災が発生する危険のある、綿、木綿のぼろ、わら、木毛、紙等の「着火後の燃焼速度が速いもの」のことをいいます(大幾鉄工事件、大阪高判昭58.3.22刑集39巻6号396頁。最1小決昭60.10.21刑集39巻6号362頁。なお、昭46.4.15基発309号参照)。労安衛則279条1項違反(労安衛法20条2項違反)が成立するには、目的物が燃えやすいものであることを認識していれば足ります(上記大阪高判)。他方、壁面にウレタンフォームが吹きつけられていることは認識していたが吹付け後の乾いた状態にあるウレタンフォームが難燃性の断熱材であると誤解をしていたとして労安衛則279条1項違反の成立が否定されたケースもあります(高知地判平25.3.1裁判所ウェブサイト掲載。但し、このケースでは、過失犯である業務上失火、業務上過失致死の成立があるとされています)。

社労士

以上のほか、 *外国人技能実習生  *アーク溶接による火災  *労働者死傷病報告  *災害調査  等 も解説しておりますので労働安全衛生広報の12月15日号をご覧になっていただければと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和
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天井クレーンの安全装置の故障による災害

2014.12.31.Wed.00:38
社労士 

 連載している労働安全衛生広報の11月15日号、「天井クレーンの安全装置の故障による災害」を取り上げています。事案は、ホイスト式天井クレーン(巻上装置として電気ホイストまたは電気チェーンブロックを使用したクレーン)を使用してプラスチック合板をトラックに積載するため荷上げしたところ、巻過防止装置が故障していたため巻き上げロープを巻き切ってしまい、ワイヤロープ端末固定部付近でワイヤロープが切断して、プラスチック合板の荷が落下して被災労働者に当たったというものです。
 この中では
 *天井クレーン災害
 *天井クレーンの定期自主検査指針
 *労働者死傷病報告
 *災害調査
 *クレーン則
 *安全配慮義務
 等について解説をしてます。


弁護士


 本件では、定期自主検査を実施していない法違反が認められましたね。この定期自主検査を実施する場合に、「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭60.12.18 自主検査指針公示第8号)に拠ることに注意する必要があるということですが、そのポイントを説明してください。


社労士


 この指針は、クレーン等安全規則第34条の規定による天井クレーンに係る自主検査の適切かつ有効な実施を図るため、当該定期自主検査の検査項目、検査方法及び判定基準について定めたものです。
 具体的には、①ランウェイ部分、② 鋼構造部分、③走行機械装置、④横行機械装置、⑤巻上機械装置、⑥潤滑装置、⑦電気関係、⑧安全装置、⑨荷重試験等についての検査項目を定め、その検査方法及び判定基準が示されています。
 本件で問題となった巻過防止装置についても以下のとおり定められています。
 
スクリーンショット (280)
 

 このように指針に示された各項目について的確に検査を実施し、その記録を3年間保管しておくことが義務付けられています(クレーン等安全規則第38条)。
  また、この定期自主検査を実施する場合、法定の資格は必要とされていませんが、事業者は、「天井クレーンの定期自主検査者に対する安全教育について」(昭61.11.21 基発第670号)により指示された「天井クレーン定期自主検査者安全教育実施要領」により検査者に教育を行うよう勧奨されています。


 以上のほか、 *天井クレーン災害  *労働者死傷病報告   *災害調査   *クレーン則   *クレーン災害と安全配慮義務等も解説しておりますので労働安全衛生広報の11月15日号をご覧になっていただければと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和





事業場外みなし労働時間制②

2014.12.30.Tue.23:49
社労士

 労働基準広報の2015年1月1・11日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


は、今回で5回目となります。今回は、4回に引き続き事業場外みなし労働時間制に関係する質問に答えています。

 質問は、以下の3問です。

① 会社で労務担当部署の責任者をしております。 
 当社は、「事業場外みなし労働時間制」を外勤の社員に適用しておりましたが、先日労基署の監督官が臨検監督に来られて、当社の場合は外勤の社員には端末を持たせていて労働時間を把握することができるから労働時間の算定が困難であるとはいえないので事業場外みなし労働時間が適用にならないと言われ、是正勧告書を交付されました。
今までは、このような指摘がされたことはありませんでした。監督官からも説明を受けたのですが、労基署の「事業場外みなし労働時間制」についての判断基準についてご教授ください。

② 会社で、総務係に配属になり、労基法を勉強中です。
当社では、「事業場外労働みなし労働時間制」を営業推進部に所属する企画販売課○○地区担当の従業員で、主として事業場外において業務に従事する者に適用しております。この度、事業場外労働のみなし労働時間制における労使協定の有効期間が切れる時期になりました。労使協定を結ぶ場合の留意点についてご教授ください。

③ 事業場外労働のみなし労働時間制をとる場合、時間外労働、休憩、深夜業、休日はどのように扱うのでしょうか?また、事業場外労働のみなし労働時間制をとる場合、年少者や妊産婦の保護規定との関係はどのようになるのでしょうか?

  今回は、①について紹介することにします。


*行政の考え方

社労士  

 行政の考え方は、東京労働局のリーフレットで(略)で具体例が示されているので、基本的考え方がよく分かります。
 ここでは、 「営業社員は出社して1時間程度事務所勤務を行い各人が当日の業務の段取りをするなど して、その後、外出して1人で営業を行い、営業社員の判断でそのまま直帰する場合や、外勤後に帰社してその後内勤を行う場合があるが、これらの場合には、事業場外労働のみなし労働時間制の適用はあるか」という問いに対して「事業場外労働に従事した場合、①使用者の具体的な指揮監督が及ばず、②労働時間の算定が困難なときに、事業場外労働におけるみなし労働時間制が適用できることになります。(中略) ①外勤業務の具体的指示を行っているときや、外勤後に結果報告を求めているときは、使用者の具体的な指揮監督下にあると客観的に認められ、また、②「営業社員に携帯電話を持たせて」いる場合に、営業社員が随時、所属事業場と連絡をとりながら事業場外で業務を行うなど、使用者から随時指示連絡できる(事業場に随時連絡させることができる)体制にしているときは、労働時間の算定が困難ではないので、みなし労働時間制の適用はできません。」としています。
 これによれば、外勤業務の場合でも、外勤後に事業場に帰ってから結果報告が義務付けられていたり、自宅に直帰する場合でも業務の結果報告が求められ、使用者から随時連絡を取る(あるいは労働者から随時連絡を取らせる)ために労働者に携帯電話を持たせているような場合には、みなし労働時間制の適用はないことになります。これに反して、携帯電話を持たせていても、それは営業社員の判断で取引先との連絡に使用するためであり、通常は事業場とは連絡を取らず、営業業務に従事する労働者の裁量で事業場外労働をさせていた場合には、「労働時間の算定が困難なとき」に当たって、みなし労働時間制の対象となります。

  
*労基署の監督指導


弁護士  

労基署では、事業場外みなし労働時間制につてどのような監督指導が行われているのですか?

社労士  

 平成26年 1 月 15日付けの東京労働局発表(略)による「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成24年度)」に、「労働時間の把握が可能であったにもかかわらず、事業場外労働に関するみなし労働時間制を 適用していたため、割増賃金の不払が発生したもの」として商業の事業場に対して、対象労働者数約530人に 遡及是正額約5億円を支払わせた具体例が示されています。

弁護士  

ずいぶん、多額ですね。

社労士 

これは、監督を実施して、①事業場外で業務に従事していた労働者に同みなし労働時間制を適用していたが、当該労働者が業務のため所持している端末機により労働時間を把握することができることから労働時間の算定が困難と認められず、同みなし労働時間制が適用できないこと、②同みなし労働時間が適用できない場合、通常の労働時間管理を行う必要があることから、 端末機の記録等から労働時間を確認したところ、長時間労働が認められ、割増賃金の不払も発生していたことということが確認できたので、労基法第37条(割増賃金)及び第32 条(労働時間)等違反で是正勧告した事例です。
違反を指摘された会社は、 ①事業場外労働に関するみなし労働時間制を廃止するとともに、労働者の労働時間を適正に管理し、時間外労働等が発生した場合には割増賃金を支払い、過去の割増賃金の未払分については、実態調査を行い不足分を支払ったこと②労働時間を短縮するため、事業場外で業務に従事する労働者の新規採用による増員や外勤方法の見直しを行ったことで是正を行ったものです。

弁護士  

「事業場外みなし労働時間制」についての行政の判断基準は従前と変わらないのでしょうけど、端末機により労働時間を把握することができるとされたことは、注目すべきですね。携帯端末が昨今は加速度的に進歩していますので、この技術の進歩を踏まえると労働時間の把握は以前に比べると格段に容易になっているのでしょうね。これを踏まえて各会社は、自社の事業場外みなし労働時間制の見直しをする必要がでてきたのではないでしょうか。

 

紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和



事業場外みなし労働時間制①

2014.12.30.Tue.23:07
社労士

 労働基準広報の2014年12月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


は、今回で4回目となります。今回は、事業場外みなし労働時間に関係する質問に答えています。

 質問は、以下の2問です。

① この度、会社の労務担当部署に配置されました。労務関係の仕事は初めてで、色々勉強しているところです。当社では、事業場外みなし労働時間制を採用しています。最近、事業場外みなし労働時間制に関する最高裁の判例が出たということで、上司から当社の制度の見直しをするように言われております。ただ、未だ事業場外みなし労働時間制についてよく分からないのが実情です。事業場外みなし労働時間制とは何か教えてください。

② 人事労務担当室長をしています。
 弊社は、営業社員について事業場外みなし労働時間制を導入しています。事業場外みなし労働時間制については、注目すべき判例が出て、要件が厳しくなるということを聞いております。その判例のポイントをご教授ください。また会社が、事業場外みなし労働時間制を取る場合、どのようなことに注意しなければならないか、ご教授ください。

 今回は、②について紹介することにします。


*重要判例-阪急トラベルサポート事件

弁護士 

旅行添乗員に事業場外みなし労働が適用されるかどうか問題となった、阪急トラベルサポート事件ですね。3件の訴訟に対する判決があって、1審判決はみなし労働時間制が適用されるかどうかの判断が分かれましたが、東京高等裁判所はいずれの事件でもみなし労働時間制が適用されないと判断しています(第1事件が東京高判平23.9.14労働判例1036号14頁、第2事件が東京高判平24.3.7労働判例1048号6頁、第3事件が東京高判平24.3.7労働判例1048号26頁)。3件とも上告・上告受理申立がされ、第2事件について上告棄却の判決が出ました(最(2小)判平26.1.24労働判例1088号5頁)。

*事案の概要

社労士 

どのような事案だったのですか?

弁護士 

 派遣会社に登録型派遣添乗員として雇用されて、旅行会社である派遣先会社に派遣された労働者が、雇用主の会社に対して実労働時間での時間外割増賃金と休日労働割増賃金の請求をした事件です。この事件では、派遣先会社が主催する国内ツアーや海外ツアー(募集型企画旅行)に派遣された添乗員の労働者の労働時間について、事業場外みなし労働時間制が適用されるのかどうかが問題となりました。

*労働時間の定め

社労士 

派遣労働者ということですが、労働時間の定めはどのようになっていたのですか?

弁護士 

 派遣元会社の「派遣社員就業条件明示書」には、ツアーに添乗する場合の「就業時間・休憩時間」として、「原則として派遣先旅行業約款に旅行者に対する添乗サービス提供時間として定められた午前8時から午後8時までとする。但し、実際の始業・就業(ママ)・休憩時間については派遣先の定めによる。又、具体的には添乗業務の円滑な遂行に資するように派遣添乗員が自己責任に於いて管理する事が出来るものとする。」と定められていました。


*実際の会社からの指示


社労士 

 実際には派遣添乗員は派遣先会社からどのような指示をされていたのですか?

弁護士 

 第2事件、第3事件の海外ツアーを例にとれば、ツアー出発の1か月ないし1か月半前ころに派遣元会社が当該海外ツアー担当の派遣添乗員を割り当て、割り当てられた派遣添乗員は、ツアー出発の2日前には派遣元会社から添乗業務書類(パンフレット、最終日程表、アイテナリー、参加者名簿等。アイテナリーには、ホテル、レストラン、バス、ガイド等の手配状況や予定時間が記載されている。)を受領し、出発当日はツアー参加者の空港集合時間(航空機の出発時間の2時間前)の1時間前に空港に到着して準備業務を開始し、その後添乗業務書類により指示されたツアーの旅程管理を行うといったものでした。また、ツアー終了後には旅程管理の状況を詳細に添乗日報に記載して提出することとなっていました。そのうえ、派遣添乗員の労働者は、派遣先会社から、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、派遣先の旅行会社に報告して指示を受けるよう求められていました。また、帰国後3日以内に派遣元会社の事務所に出社してツアーの報告を行い、その後派遣先会社に添乗日報やアンケート等を提出することになっていました。これらは現実に実行されており、添乗日報には、ツアー中の各日ごとに、出発から到着までの旅程に沿って、出発地、運送機関の発着地、観光地や観光施設、到着地、宿泊機関等について、出発時刻、到着時刻、所要時間が記載され、食事の内容等に関しても詳細な記載がされていました。
 会社は事業場外労働であって労働時間を算定し難いとき(労基法38条の2第1項)にあたると主張したのですが、裁判所はこれを認めませんでした。

*裁判所の判断理由

社労士 

その理由はどのようなものですか?

弁護士 

 東京高裁は、「労働時間を算定し難いとき」にあたるかどうかの判断について、使用者には原則として労働時間把握義務があることから、「『労働時間を算定し難いとき』とは、当該業務の就労実態等の具体的状況を踏まえて、社会通念に従って判断すると、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的に見て労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと解するのが相当である。」としています(第2事件、第3事件。この両判決は同じ裁判官による)。そこで、先ほどあげた、指示書(アイテナリー)での具体的指示、日程や時間の変更などについての派遣先会社に報告して指示を仰がなければならないこと、携帯電話を所持して常時電源を入れておくことが義務付けられていること、添乗日報の詳細な記載内容などの事実から、「本件添乗業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、1審原告の本件添乗業務には(派遣先会社)の具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当である。」と判断しています。

社労士 

先程の昭和63年の解釈例規(通達)については、どのような判断がされているのですか?

弁護士 

 これは発出当時の社会状況を踏まえた例示であって、これに当たらなくても、「当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従って判断すれば、使用者の具体的指揮監督が及ぶものと評価され、客観的に見て労働時間を把握・算定することが可能であると認められる場合には、事業場外労働時間のみなし制の適用はない」と判断しています。

*最高裁の判断

社労士 

通信手段が高度化した現在では、通達で例示されたものよりも事業場外みなし制度が適用される余地は少なくなりますね。この事件で、高裁判決は「使用者の具体的指揮監督が及ぶ」と判断していたのですが、最高裁ではどのような判断だったのですか?

弁護士 

 第2事件の判決で示されたのは、本件の「以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認めがたく、労働基準法38条の2第1項にいう『労働時間を算定し難いとき』に当たるとはいえないと解するのが相当である。」というものです。

社労士  

 高裁判決とは結論が同じなのですが、何か違った点がありましたか?

弁護士  

 高裁判決は、「具体的な指揮監督が及んでいるか」どうかが、「労働時間を算定し難い」かどうかを判断する基準としていたのですが、最高裁判決では、この「具体的指揮監督」を媒介にしないで、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等」を判断の要素として、そこから直接的に、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断しています。これが高裁判決とは異なる点だと思います。

社労士 

具体的にはどのような影響を及ぼすと思いますか?

弁護士 

 事業場外労働中の具体的な指示がなくても、例えば、電話でしょっちゅう連絡を取り合っていたという事実関係がなくても、あらかじめの業務を遂行するにあたっての指示から、その業務を遂行するために必要な時間を把握することが可能であり、事後的な報告と併せれば、業務遂行過程での具体的指示がなくても、労働時間の把握が困難ではないと評価されることがはっきりしたということができると思います。

社労士 

第1事件、第3事件はどうなったのですか?

弁護士 

 上告、上告受理申立がされていたのですが、前に説明しましたように、高裁では3  件とも、みなし労働時間制の適用が否定されていました。第1事件、第3事件は、第2事件の判決と同じ日(平26.1.24)に、上告棄却、上告不受理の決定が出ました(判例タイムズ1400号101頁の解説の記載による)。この2件もみなし労働時間制が否定された高裁判決が維持されて、結局、3件とも、みなし労働時間制が適用されないと判断されました。

*労働時間の判断

社労士 

 事業場外の労働時間みなし制度が適用されないとすると、具体的な労働時間が問題となってきますね。この事件ではどのように判断されたのですか?

弁護士 

 最高裁では、労働時間といえるのはどの範囲なのかの点については上告判断の対象とはなっていません。原審の判断が結論的には是認されています。
原審では、ツアーの集合時刻の1時間前から労働時間が開始する、滞在期間の1日の労働時間の終了はホテル到着後1時間後(但し、ホテルで添乗人が同伴する食事がある場合には夕食終了時)である、航空機による移動の場合には飛行機出発後1時間までが労働時間であり、飛行機の到着時刻の1時間前からまた労働時間が始まる、ツアー客に同行する食事時間は実態からして休憩時間ではないなど、実態を事実認定して労働時間かどうかが判断されています。
 また、添乗員がツアー参加者に対する説明、案内の業務に現に従事している時間だけではなく、ツアー参加者から質問・要望等が予想される時間帯にはこれに応対する義務があることから、そのような時間もまた労働時間であると判断されています。

社労士 

でも、ホテル到着後1時間まで労働時間とするとか、飛行機の出発後1時間までを  
労働時間とするとかの判断はどのようにして行ったのでしょうか?


弁護士 

判決文からは詳細は分かりません。労働者側は、会社から指示されていた内容や実際の具体的作業の有無などを立証したのでしょうね。それには、かなり詳細に作成されている添乗日報の記載が役に立ったと思います。しかし、具体的作業がなくても、何らかの応対が義務付けられていて、労働からの解放が保障されていない以上は、労働時間です。そうすると、抽象的には、旅行添乗員は突発事態の発生に備えて、旅行の行程中は1日24時間の作業を義務付けられているといえなくもありませんが、裁判所は、そのなかから労働時間を特定しています。でも、毎日毎日事情は変わるでしょうから、ここでの判断は、日々の具体的作業の特定というよりも、「通常はどのような作業が必要か。通常はどこまで行けば労働からの解放の保障があるといえるのか」という、少し抽象化した労働時間の認定であるように思います。そういった意味では、ここでいう「労働時間が何時間か」の判断は、「通常必要とされる労働時間」の判断にやや近づいているのではないでしょうか。


*割増賃金の計算

弁護士 

 この事件では、賃金は日当制でした。第2事件を例にとれば日当日額が16000円で、「派遣社員就業条件明示書」には、ツアーに添乗する場合の就業時間は原則として午前8時から午後8時までとなっていました。会社側は、この日当には所定労働時間3時間分の時間外労働分を含むと主張しています。


社労士  

 そうすると、時間外割増賃金の金額を計算するのに、割増賃金の計算の基礎となる1時間当たりの金額は、16000円を8時間で割るのか11時間で割るのかが問題となりますよね。この事件でどのように判断されたのですか?
弁護士  日当に時間外割増賃金が含まれているというためには、所定労働時間8時間に対する賃金と所定時間外労働に対する割増賃金部分が明確に区分されている必要がありますが、本件ではそのような区分がされていないので、日当額を8時間で割って1時間当たりの基礎額を計算するという判断となっています。
 なお、この第2事件の第1審東京地裁判決(平22.7.2労働判例1011号5頁)は、みなし労働時間制の適用を認め、「業務の遂行上通常必要とされる時間」を11時間であると判断したのですが、この判決でもやはり日当を8時間で割って1時間当たりの基礎賃金額を算定するべきであると判断しています。その理由として、「労基法の強行的直律的効力により労働契約の労働時間11時間という部分は無効となり、労基法の定める8時間となると解される。」と言っています。

*監督署の是正勧告

社労士 

この事件では、労基署の是正勧告もありましたね。

弁護士 

 2007年(平成19年)5月30日に労働者が三田労基署に労基法違反の申告をして、10月1日に三田労基署が時間外・休日労働に対する割増賃金を支払っていないことについて是正勧告を出したところ、会社は事業場外労働時間のみなし制の要件は満たしているとして、是正指導の内容を拒否する回答を提出しているという事実が第2事件の高裁判決で認定されています。
 それから、これらの事件での請求対象期間のツアー添乗業務の後の2008年(平成20年)11月1日に会社と従業員代表(訴訟の原告となった労働者が所属する労働組合には所属していない)とが、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、1日11時間労働したものとみなす、との内容の事業場外みなし労働時間制に関する協定書を締結しています(第2事件の東京地裁判決で認定されている)。

*事業場外労働に関する労使協定

社労士 

 この東京地裁判決では、事業場外労働に関する労使協定は、「事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす」という微妙な表現になっていますが、もし「事業場外において添乗業務に従事した日については、1日11時間労働したものとみなす」との労使協定が、請求対象期間よりも前に締結されていたとしたら、どうなったのですか?

弁護士

 先ほどの判例の判断に従えば、その場合でもやはり実労働時間で労働時間が計算されます。というのは、労基法38条の2第1項の事業場外労働における労働時間のみなし制は、「労働時間を算定し難いとき」にはじめて適用されるからです。事業場外労働に関する労使協定は、事業場外労働の「労働時間を算定し難いとき」で、「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」(同条1項但書)に、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を何時間とするのかの協定です(同条2項)。従って、そもそも「労働時間を算定し難いとき」にあたらない場合には、この事業場外労働に関する労使協定を締結しても、みなし労働時間制が適用されず、実労働時間で労働時間が計算されることになるのです。


社労士 

 現在では、昭和63年の通達にあったような「無線やポケットベル」どころか、携帯電話やスマートフォンなどの発達で事業場外労働についても使用者が具体的指示を出すことができる状況が生まれています。また、GPS機能が付いていて労働者がどこにいるのか事業場で把握可能な状況にもなっています。ですから、みなし労働時間制が適用されると思っていたところ、よく検討してみると、やはりみなし労働時間制が適用されないと判断される場合が今後も出てきそうですね。会社が、事業場外みなし労働時間制を取る場合には、この状況の変化を十分踏まえる必要があると思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

定額残業制

2014.12.30.Tue.22:49
社労士

 労働基準広報の2014年11月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


は、今回で3回目となります。今回は、定額残業制に関係する質問に答えています。


 質問は、以下の3問です。

① 人事労務担当課長をしています。
   弊社は、定額残業制を導入しようと考えております。定額残業制に関する注目すべき判例が色々出ていると聞いて  おります。それらの判例のポイントをご教授ください。また会社が、定額残業制を取る場合、どのようなことに注意しなけ ればならないか、ご教授ください。

② 人事労務担当役員です。 
  わが社は、管理部門の社員に年俸制の採用を検討しております。年俸制をとる場合、割増賃金についてはどのように 考えられるのでしょうか? また、会社が労基法37条違反にならないようにするために気を付けなければならないことを ご教授ください。

③ 会社の労務担当です。
  弊社は、定額残業制を採用しております。この度、弊社の労働者が労基署に行き、当社の定額残業制は違法である  旨の申告を行ったことで、労基署から呼び出されております。労基署は、定額残業制についてどのように考えているの  でしょうか?
  また、求人票の記載も不適切なものについては、是正するよう指導されると聞きました。どのような場合に指導される  のでしょうか?今回は、①について紹介したいと思います。


今回は、①について、紹介したいと思います。

*定額残業制

社労士  

 定額残業制とは、法律に明文規定はありませんが、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働に対する割増賃金をあらかじめ定額の手当等の名目で、あるいは基本給の一部として支給する制度をいいます。また、固定残業制とかみなし割増賃金制とも言われることもあります。最初に、定額残業制についての判例の動向をみていくことにしましょう。

*判例

弁護士  

 まず、定額残業制についてですが、関西ソニー販売事件(大阪地判昭63.10.26労働判例530号40頁)では、時間外労働手当に代えて一定額を支払うという定額残業制は、労基法所定の計算方法による金額以上の金額を支払っていれば、労基法37条に違反しないが、現実の時間外労働に対する割増賃金額が定額を上回るときはその分を使用者に請求できるとしています。


*小里機材事件 

弁護士   

 小里機材事件(東京地判昭62.1.30労働判例523号10頁)では、 月15時間の時間外労働に対する割増賃金が基本給に含まれることを合意している(本来の基本給に15時間分の時間外労働割増賃金を加算して「基本給」としている)との会社の主張に対し、「仮に、月15時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金の一部または全部とすることができるものと解すべき」としています。
    この判断は控訴審の東京高裁判決(昭62.11.30労働判例523号14頁)でも是認され、最高裁でも正当として是認することができる(最(1小)判昭63.7.14労働判例523号6頁)とされています。


*高知県観光事件

社労士  

 歩合給のタクシー乗務員についての判例として、高知県観光事件(最(2小)判平6.6.13労働判例653号12頁)がありますね。
 ここでは、歩合給制のタクシー乗務員について、「上告人らに支給された前記の歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なもの」としています。
定額残業制について、最近では、平成24年に最高裁判決が出ていますね。

*テックジャパン事件

弁護士   

 テックジャパン事件ですね(最(1小)判平24.3.8労働判例1378号80頁)。この事件の事実関係は、基本給を月額41万円とし、1か月の労働時間合計が180時間を超えた場合にはその超えた時間について1時間当たり一定額(1時間当たり2560円)を別途支払い、月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき1時間当たり一定額(1時間当たり2920円)を控除するという合意がされているというものでした。
会社は人材派遣会社で、労働者は派遣労働者です。この事件で判例は、180時間以内の労働時間中の法定時間外労働がされても基本給自体が増額されることはないこと、また、「月額41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項(筆者注:労基法37条1項)の規定する時間外の割増賃金に当たる部分を判別することができない」ことから、これでは月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する割増賃金を支払われたことにならず、月間180時間の中に含まれる時間外労働について、使用者は月額41万円の基本給とは別に割増賃金を支払う義務を負うとしています。

社労士  

 この事件では、補足意見も注目されていますね。

弁護士  

 そうですね。この事件では、櫻井裁判官が補足意見を出していて、一定時間(例えば10時間分)の定額残業制をとる場合には、その旨が雇用契約上も明確にされていること、支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当額が明示されていること、さらにこの一定時間(例えば10時間)を超えて残業が行われた場合には所定支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ合意されていることが必要であるとしています。

社労士 

 櫻井裁判官は、長い間労働行政にいた方で、労基法等の専門家ですので、補足意見といえども影響が大きいのではないでしょうか。

*アクティリンク事件

弁護士  

 アクティリンク事件(東京地判平24.8.28労働判例1058号5頁)も最近出た判例です。この事件では、周知されている賃金規程上「時間外労働割増賃金で月30時間相当分として支給する」と規定されている営業手当について、「定額残業代の支払が許されるためには、(1)実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件(1))は勿論、(2)支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること(条件(2))が必要不可欠であるというべきである。」とした上で、「営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない。」などとして営業手当は残業代ではないとしています。
   テックジャパン事件のように時間外労働分の割増賃金を基本給に組み入れているような場合には、法定労働時間分の賃金と時間外労働分の割増賃金が、金額としての区別がつきにくいのですが、アクティリンク事件のように何らかの手当(例えば「営業手当」)が支給されえいる場合、それを使用者が「固定残業代である」と主張して、労基法37条に従った計算した残業割増賃金からその控除を主張することがあります。そうすると、その手当の趣旨が問題となってきます。アクティリンク事件の東京地裁判決は、営業手当は時間外労働の対価としての性格を持たないと判断しています。


*定額残業制を取る場合の注意事項

社労士  

 以上の判例からいえることは、労基法所定の計算方法による金額以上の金額を支払っていれば、労基法37条に違反しないが、法所定の計算方法によらない場合は、割増賃金として法所定の額が支払われていることを明確にするために、割増賃金相当部分とそれ以外の賃金部分とを明確に区別することを要するということです。法定休日労働の割増賃金相当分、深夜労働の割増賃金相当分についても同じです。

弁護士

  それに、定額残業制をとる場合の手当の名目をはっきりさせておく必要があります。定額残業の趣旨であると明確に規定しておかないと、その趣旨が労働者に伝わらなかったり、労働者に伝わったとしても裁判所には伝わらないことがあり、その場合には、使用者がいくらその趣旨が定額残業手当であると主張しても、その手当が割増賃金の計算の基礎に算入され、計算された割増賃金から控除することなくそのまま割増賃金の支払いを命じられることになります。
   また、櫻井裁判官の補足意見も注意をしておく必要があると思います。ですから、給与明細には、実際の時間外労働、それに相当する割増賃金額を明示しておくのが妥当でしょう。


社労士 

 時間外労働に対する割増賃金であるとして定額残業制をとって、通常の賃金と区分できるようにしても、深夜労働、休日労働については、割増賃金は発生します。それを含む定額残業制をとるのであれば、「定額残業手当」であるとして全体の金額を就業規則や賃金規程で書いてだけでは足りませんね。法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働の区別も必要になるのでしょう?


弁護士

 そのとおりですね。基本給には75時間分の時間外労働と30時間分の深夜労働手当が含まれるとの賃金規程があったという事件があります(ファニメディック事件、東京地判平25.7.23労働判例1080号5頁)。使用者の主張は、基本給に全部含まれているというもので、その根拠として、賃金規程に、75時間分の時間外労働手当相当額は、「(能力基本給+年功給)×34.5%」、30時間分の深夜労働手当相当額は、「(能力基本給+年功給)×3.0%」という計算式もあり、これを超える場合には、使用者は超えた金額を支払うとの規定もありました。使用者は、この計算に従えば労働者が時間外労働、深夜労働を計算できるではないかと主張したのですが、裁判所は、「同規定を前提としても、75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、契約書や給与支給明細書にも内容は全く記載されていない。」としています。この事例では、全体が基本給に含まれるという技巧的すぎる方法をとったことがこの判断の理由なのかもしれませんが、「定額残業手当」として基本給とは区分していても、時間外労働割増賃金、深夜労働割増賃金、休日労働割増賃金の金額での区分を規定しておく必要がありそうです。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和


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