スポンサーサイト

--.--.--.--.--:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

建設業労働災害防止協会から表彰されました。

2016.12.31.Sat.12:40
社労士

建設業労働災害防止協会から表彰されました。これが、表彰状です。

表彰状


弁護士

それは、おめでとうございます。功績賞ですね。どのような功績が認められたのですか?


社労士


建設業労働災害防止協会は、安全衛生教育を色々やっているのですが、その中に特別教育の講師養成講座や法令講座等があります。そこで、労働安全衛生法令をここ数年担当していたことの功績ということです。


弁護士


特別教育の法令関係の講師養成講座で、気を付けていることがありますか?


社労士


 そうですね。特別教育の目的は、作業を行う人がけがをしたり、健康を害したりしないために行うわけですので、法令でもその観点は必要だと思います。特に、労働安全衛生関係法令は、条文等も多いので、その中でも作業する人に直結するような条文をまず教えなければならないと思います。法令の教育時間は、1時間というものが多いので、内容を吟味しないと理解してもらうまでにいくのは難しいと思います。

弁護士

そうですね。労働安全衛生関係法令は、すごいボリュームですから、その中で何を教えるかということを考えながら教育することは必要ですね。

このように表彰してもらうと、励みになりますね。


社労士


そうですね。これからも、少しでもお役にたてればという気持ちになりますね。





スポンサーサイト

ドラグショベルの用途外使用

2016.12.31.Sat.11:33
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年12月15日号、「ドラグショベルの用途外使用」を取り上げています。事案は、鉄道の道床交換工事現場で、玉掛け用の繊維ベルトをアングル材に巻き、ドラグ・ショベルのバケットのポイント(以下、「爪」という。)に掛けて運ぼうとしたところ、繊維ベルトが切れ、鋼材が作業員の左足の甲に落下したものです。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *元請・下請の責任
  *災害調査
  *是正勧告書
  *クレーン機能付きドラグ・ショベル
  *用途外使用と安全配慮義務違反

等について解説をしてます。

 
 今回は、用途外使用と安全配慮義務についての裁判例の部分を紹介します。


弁護士


 車両系建設機械であるバックホウ(ドラグ・ショベル)を、使用許容要件がないのに荷のつり上げに用いたことを、安全配慮義務違反であると判断した裁判例として、中山商事事件(大阪高判平18.11.17判例時報1981号18頁)があります。この事件は、神戸市が発注した工水管取替工事の現場で、下請会社の従業員が運転するバックホウが、バンドで水道管を吊ったままの状態でアーム部をもちあげたために、その水道管の上に乗って作業をしていた労働者が水道管と土留切梁との間に挟まれて死亡したという事故で、直接の雇用主である下請会社、元請会社、注文主である神戸市を被告として損害賠償請求をした事件です。なお、この事件は、下請会社が労働安全衛生法20条1号、労働安全衛生規則164条1項により起訴されて罰金刑を受けています。また、元請会社は、一審の途中に破産宣告を受けており、元請会社に対する訴訟は取り下げられています。
裁判で、下請会社は安衛則164条1項の立法趣旨は主たる用途ではない荷の吊上げにより荷や建設機械が不安定となり、荷が落下したり建設機械が転倒したりすることを防止する点にあるとして、同項違反と本件事故との因果関係を争ったのですが、裁判所は、同項は「労働者の危険を防止することをもその目的としている」とし、「本件事故は、労働安全衛生規則164条1項が想定する危険性が現実のものとなった場合であるということができるから、太郎(注 被災労働者)の死亡は、上記安全衛生規則164条1項と内容を同じくする安全配慮義務の不履行から、通常生ずべき損害であるということができ、相当因果関係があると認められる。」と判断しています。
 他方、大阪高裁は、発注者神戸市については、「神戸市は、当該工事における災害の発生の危険性が、具体的・客観的に明らかである場合にのみ、その監督員を通じて、近畿建設(注 元請会社)や一審被告中山商事に対し、工事の安全性を確保するための指示をしなければならない義務を負っていた」としたものの、「一審被告神戸市の監督員が、本件事故現場において一審被告中山建設がバックホウを使用していたのは移動式クレーンが使用できないためであると判断し、これを放置していたことは、近畿建設あるいは一審被告中山商事に対し、その使用を中止するよう指示する注意義務に違反したものであると認めることはできないし、本件事故当日に、バックホウを使用するに際し求められる合図者の配置を指示しなかったとしても、これを指示すべき注意義務に違反したものであると認めることはできない。」と判断し、神戸市に注意義務違反を認めた一審判決(神戸地判平17.11.11)の部分を取消しました。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

サイロで発生した酸欠事故

2016.12.31.Sat.11:24
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年11月15日号、「サイロで発生した酸欠事故」を取り上げています。事案は、被災者が、サイロの上部にあるマンホール蓋を開いて、サイロ内の米国産トウモロコシを目視により点検していたが、トウモロコシの上部が変色していたので、その状態を確かめるため、サイロ内の垂直タラップを降りたところ、酸欠状態の空気を吸い込んだことで酸素欠乏症となりタラップから墜落したというものです。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *酸欠とは
  *災害時監督
  *是正勧告書
  *酸欠事故と安全配慮義務
等について解説をしてます。

 
 今回、酸欠の安全配慮義務が問題となった裁判例をいくつか紹介していますが、その中のマルハ事件(山口地下関支平13.4.23)を紹介します。


弁護士


 これまで酸素欠乏症が問題となった判例として、マルハ事件(山口地下関支平13.4.23判例時報1767号125頁)があります。この事件は、甲板手が船舶内のソイルタンク(船舶用汚水処理装置)の修理に際してこのソイルタンクの設置してあるソイルタンク室内に降りたところ、同室内に硫化水素ガスが充満していたかあるいは酸素欠乏のため、硫化水素中毒または酸素欠乏症で死亡した事故について、遺族が船舶所有者に対して損害賠償を請求した事件ですが、裁判所は、A一等航海士(船員労働安全衛生規則2条による甲板部の安全担当者でもある)が被災者にソイルタンクの修理を指示するにあたって、保護具の使用、看視員の配置等の必要、適切な措置を講じなかったことに船員労働安全衛生規則50条2号、5号の違反があると判断しています。そして、船舶所有者が硫化水素発生の危険性について安全担当者に十分な安全教育を施さなかった落ち度があり、船舶所有者の「組織としての落ち度がA一等航海士の無知ないし安全担当者としての不適格性をもたらしたものであって、これらがあいまって被告会社の過失を構成するというべきである。」として、会社自体に不法行為責任があると判断しています。
 この判決では、船舶を所有して営業を行うものには「当該船舶の乗組員につき、その生命、身体の安全を害すべき事故の発生を未然に防止すべき法律上の義務」があり、この義務は「雇用関係の有無にかかわらず、船舶所有者と乗組員との間に当該関係があることに基づいて発生する一般的義務である」とし、故意または過失により船舶所有者がこの義務に違反して違法に乗組員に損害を与えた場合には、船舶所有者は不法行為に基づきその損害を賠償する責任があると判断しています。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

「はい」から墜落した年少者

2016.12.31.Sat.11:12
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年10月15日号、「はいから墜落した年少労働者」を取り上げています。事案は、被災者が冷凍庫内で冷凍食品を入れてあるプラスチックコンテナ―が積み上げられたはいのはい付け作業の際に高さ180cmのはいの上から墜落し、尾骨骨折したものです。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *「はい」作業について
  *災害時監督
  *是正勧告書
  *年少者の労働基準法等での就業に関する制限
  *年少者と危険有害業務等

等について解説をしてます。

 
 今回は、年少者と危険有害業務等にういての箇所を紹介します。


弁護士


(1)年少者
 本件では17歳の高校生が就労をしています。未成年者であっても、労基法、労働安全衛生法などの労働関係法規が適用されることは当然のことです。15歳に達した日以降の最初の3月31日が終了するまで、原則として労働者として就労させることはできません(労基法56条1項、例外として同条2項)が、本件では17歳ですのでこの点の問題はありません。
しかし、18歳未満の労働者は、「年少者」として特別の保護や就労の制限があります。これは、年少者の健全な成長と学業との調整を図ったものです。18歳未満の者に過重な労働や危険有害な労働をさせることは、まだ成長過程にある労働者の健康に影響を及ぼすことになるからです。そこで、年少者については、次のような保護や就労の制限があります。
① 変形労働時間制、フレックスタイム、36協定による時間外・休日労働、事業の特殊性による労働時間・休憩の特則(労基法40条)の適用が、原則として排除される(労基法60条)。
② 深夜業が原則として禁止される(労基法61条)。
③ 危険有害業務に就労させるこが禁止される(労基法62条)。

(2)危険有害業務の禁止
 年少者はまだ発育過程にあって、抵抗力が弱く、肉体的・精神的にも未成熟であり、技術的も未熟なことが多いので、危険な業務や有害な業務に就労させることが禁止されています(労基法62条)。18歳未満の労働者の就業が制限される業務としては、労基法62条に規定されている、運転中の機械や動力伝動装置の危険な部分の掃除・注油・検査・修繕、運転中の機械若しくは動力伝動装置へのベルト若しくはロープの取付・取外し、動力によるクレーン運転、重量物の取扱(その内容は年少者労働基準規則7条に規定)、毒劇物等の有害な原料・材料や爆発性や発火性や引火性のある原料・材料を取り扱う業務、安全、衛生または福祉に有害な場所における業務のほか、年少者労働基準規則(以下「年少則」)8条に規定されています。そして、そこには、「37 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務」があります。本件では、17歳の労働者に対して、冷凍庫内で冷凍食品の詰め替え作業や仕分け作業を行わせていたのですから、年少則8条で定める有害作業に該当して、労基法62条に違反します(罰則規定は119条1号)。
  なお、年少者への危険有害業務への就業制限には、深夜業の禁止のような例外や除外規定がありません。従って、これらの業務に従事させた場合には、直ちに労基法62条に違反することになります。
 さらに、はい作業は、技能講習を修了した者のうちから作業主任者を選任して、この作業主任者が作業の直接指揮等を行うべき作業です(労働安全衛生法14条、労働安全衛生規則428条)。作業方法や危険性とその回避方法について専門知識がないと、労働者に危険が及ぶことから、専門の教育を受けた資格者が直接作業を指揮すべきことを定めているのです。作業主任者を置かなかった場合、労働安全衛生法違反となりますが、これによって実際に作業の危険が現実化して事故が生じた場合、事象者の安全配慮義務違反の問題も生じます。労働安全衛生法が上記のようにはい作業について作業主任者を選任すべきとしているのは、はい作業が、そもそも危険な作業だからです。はいが崩れたり作業をしているはいの上から落下する危険のある作業です。年少則では、はい作業に年少労働者を就かせることを禁止する条文はありません。しかし、専門知識がなく技術的に未熟であることの多い年少者をはい作業に就かせること自体が、そもそも問題であるといえます。本件では、はい作業主任者を選任せず、はい作業主任者の直接指揮の下ではなくして、はい作業を行わせたこと、安全に昇降できる昇降装置を設けていないまま、はい作業をさせたこと、年少者に著しく寒冷な場所における業務を行わせていたこと、に安全配慮義務違反があると考えられますが、もし作業主任者が選任されその指揮下ではい作業が行われていたとしても、年少者に、危険な作業であるはい作業を行わせたこと自体が安全配慮義務違反となるとの可能性もあり得るところです。

紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

石綿ばく露により中皮腫を発症

2016.12.31.Sat.11:00
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年9月15日号、「石綿ばく露により中皮腫を発症」を取り上げています。事案は以下のとおりである。被災労働者は、解体工事会社に勤務しており、現場の経験も豊富なことから社長を補佐して、現場での技術的な指導をしたり、社員の相談に乗ったりして後見人的役割を果たしてきた。ところが、昨年の年初から咳が止まらなくなり、また、胸が苦しくなり、仕事ができなくなった。次第に症状が悪化するので、病院に行き、診察してもらったところ中皮腫と診断された。病院から、被災者の作業内容から石綿ばく露による中皮腫ということなので、労災になるとのアドバイスを受けた。そこで、労基署に、労災申請したところ、労災と認められた。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *石綿について
  *災害時監督
  *是正勧告書
  *石綿則の改正
  *石綿に関する法規制と石綿に関する労災事例
  *国の権限不行使による国家賠償事件

等について解説をしてます。

 
 今回は、この中の国の権限不行使による国家賠償の箇所を紹介します。


弁護士


 アスベストを原因とする中皮腫のり患について、国の権限不行使を理由とする国家賠償請求を求める訴訟で、国の規制権限不行使を違法として国家賠償を認めた判決があります(大阪泉南アスベスト(国家賠償請求)事件、最1小判平26.10.9民集68巻8号799頁、判例時報2241号3頁)。この事件は、アスベスト工場の元労働者(及び死亡した労働者の遺族)が国を相手に国家賠償請求を起こしたものですが、昭和30年9月から昭和32年3月にかけての大規模なけい肺健康診断及び昭和31年から特殊健康診断が実施され、相当数の異常所見者が認められたことから、1958年(昭和33年)に、粉じん作業等に関する通達を出した時点で、旧労基法に基づく省令制定権限を行使して、罰則をもって石綿工場における局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのに、旧特定化学物質障害予防規則で石綿に関する作業についての局所排気装置の設置義務などを定めた1971年(昭和46年)4月まで行使しなかったことが、著しく合理性を欠き違法であると判断されました。

紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和



 

パワハラでうつ病になった転職社員

2016.12.31.Sat.10:47
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年8月15日号、「パワハラでうつ病になった転職社員」を取り上げていま す。事案は、転職してきた社員が上司のいじめでうつ病になったというものです。この中では
   *パワハラについて
   *「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたこと」により発症する精神障害
  *うつ病発症と労災認定
  *是正労基署の監督指導
  *パワハラと安全配慮義務
等について解説をしてます。

 
 今回、パワハラの事案の損害賠償請求事件の箇所を紹介します。


弁護士


 パワハラで損害賠償責任が認められた判例として、K市水道局事件(横浜地川崎支判平14.6.27労働判例833号61頁、東京高判平15.3.25労働判例849号87頁)があります。この事件は、上司(課長、係長、主任)が、部下をいじめていたという事案で、国家賠償法に基づいてK市に損害賠償責任を認めた事案です。一審判決も控訴審判決も、K市に対する損害賠償請求を認めましたが、7割という大幅な過失相殺(素因減額)がなされています。
   
 最近の事案では、X産業事件(福井地判平26.11.28労働判例1110号34頁)があります。これは、入社1年にも満たない19歳の社員に対し、その仕事上のミスについて、上司が、「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」、「詐欺と同じ、3万円を泥棒したと同じ」、「毎日同じことをいう身にもなれ」、「耳が遠いんじゃないか」「、嘘をつくようなやつに点検を任せられるわけがない」、「嘘を平気でつく、そんな奴会社に要るか」、「会社辞めた方が皆のためになるんじゃないか、やめてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」、「死んでしまえばいい」、「辞めればいい」、「今日使った無駄な時間を返してくれ」などと言われ続け、精神障害を発症して自殺したというものです。これについて、裁判所は、「これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、d(注 自殺した労働者)の人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず、不法行為にあたると認められる。」と判断し、いじめと自殺との因果関係も肯定しました。
 

 紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

研削といしの破裂で被災した外国人留学生

2016.12.31.Sat.10:37
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年7月15日号、「研削砥石の破裂で被災した外国人留学生」を取り上げています。事案は、被災者が双頭グラインダーを使用して水道用仕切弁の研磨をしていたところ、回転中の研削砥石が破裂し、その破片が被災者の右腕と右手第5指に当たり、右腕と右指第5指を負傷したものです。

この中では
  *災害時監督
  *労働者死傷病報告
  *是正勧告書
  *外国人留学生を雇用する場合の留意点
  *外国人に対する労基法、安衛法、労働契約法などの適用
  *外国人に対する労災保険法の適用
  *損害賠償責任
等について解説をしてます。

 
 今回は、外国人留学生の就労及び労働災害をめぐる問題の部分を紹介します。


弁護士


 (1)外国人留学生の就労
 外国人が日本に留学する場合、日本において本来活動できるのは、大学等で教育を受けることだけです(入管法19条1項、別表第1の四)が、法務大臣の許可を受けた場合にはその資格外の活動ができるという仕組みになっています(入管法19条2項)。従って、留学生が賃金を得て就労する場合(「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」となる。入管法19条1項2号にあたる。)には、法務大臣の許可が必要です(入管法19条2項)。この許可は、留学生の本来の目的である教育を受ける「活動の遂行を阻害しない範囲内」で認められますが、留学生の場合には、その趣旨から、1週について28時間以内の就労が認められています(入管法施行規則19条5項1項)。ただし、就労先が風俗営業などは除外されますし、就労が可能な期間は教育期間に在籍中に限られます。この許可は包括的許可ですから、就労先が決まっていなくても、あらかじめ資格外活動許可申請をして許可を受けていれば、就労しようとする都度の個別的申請を必要としません。
 留学生がこの許可を受けないで就労している場合には、不法就労となります。そして、その不法就労の外国人を雇用した使用者は、不法就労助長罪に問われることになります(入管法73条の2第1項1号)。

(2)外国人に対する労基法、安衛法、労働契約法などの適用
 外国人留学生が日本で就労する場合、日本の労基法、労組法、労契法等の労働関係法規が適用されます。たとえ留学生が資格外活動許可を受けていなくても、あるいは資格外活動の要件である1週28時間を超えて就労していたとしても、これらは適用されます。
  刑法では属地主義の原則(刑法1条)がとられており、この原則は他の刑罰法規にも適用されます(刑法8条)。労基法は日本における事業を単位として適用されますので、日本国内の事業であれば、労基法の刑事法としての側面は適用されます。行政取締法としての側面でも同様です。ですから、日本国内に「事業」がある場合には、労基法や労働安全衛生法の刑事罰規定、行政取締規定は適用になります(厚生労働省労働基準局編『平成22年版労働基準法下』1043頁)。安衛法の適用もありますので、外国人留学生が就労する場合であっても、危険防止措置をとることや特別教育の実施は当然のことです。
日本人や日本の法人と外国人との間の民事上の法律関係にどの国の法律が適用されるかを定める法律として、「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)がありますが、そこでは、契約などの法律行為については、どの国の法律を適用するかを当事者が合意によって選択できるという原則があります(通則法7条)。本件では日本の法律の選択があったと考えてよいでしょう。なお、この選択がない場合には、「当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」(「最密接地法」)が適用されます(通則法8条)。労働契約で「最密接地法」と考えられるのは、労務を提供する地の法律です(通則法12条3項)。ですから、どの国の法律を適用するかの選択がない場合に、日本で就労するときには、「最密接地法」として日本の法律が適用されるのです。

(3)労災保険法の適用
  労災保険法も適用されますので、外国人留学生が日本の事業場での就労に起因して労災にあい、その結果死傷したり疾病にり患した場合には、日本人労働者の場合と同様、労災保険から、それぞれの給付要件に従って、療養補償給付(労災保険法13条)、休業補償給付(14条)、障害補償給付(労災保険法15条)、死亡した場合の遺族補償給付(労災保険法16条以下)と葬祭料(労災保険法17条)、傷病補償年金(労災保険法12条の8第3項)、介護補償給付(労災保険法19条の2)が支給されます。これらの労災保険給付の金額は、例えば休業補償給付は1日について給付基礎日額(平均賃金相当額のこと。労災保険法8条)の100分の60とか、障害補償給付は1級から7級までの障害については給付基礎日額の313日分から131日分の年金とかというように、法律または規則で定められていますので、その計算に従って給付金額が決定されます。労災保険給付では、その計算に従った金額が支給されます。

(4)損害賠償請求
 労災が発生した場合、労働者が使用者に対して損害賠償請求権を持つことがあります。本件で労災発生の原因として考えられるのは、研削砥石が片減りをしていて破裂しやすい状態であったのにそのまま労働者に使用させたこと、グラインダーの研削砥石の直径が50ミリ以上であるにもかかわらずカバーを設けていなかったこと、研削砥石の最高使用周速度について教育がされていなかったこと、があげられます。
 これらは、安全配慮義務(労契法5条)違反ともして構成することもできますし、不法行為における注意義務違反(民法709条)として構成することもできます。本件では、日本の法律の適用が合意されていると考えられますので、安全配慮義務の規定(労働契約法5条)も適用され、使用者に安全配慮義務違反があった場合の効果を定める民法も適用され、損害賠償責任が使用者に発生することになります(民法415条)。また、損害賠償請求の根拠として、不法行為(民法709条)や不法行為の使用者責任(民法715条)を根拠とした場合であっても、日本で労災事故が発生して傷害を負った本件の場合には、民法709条や715条の不法行為に関する法律が適用されます。不法行為については、「加害行為の結果が発生した地の法による」(通則法17条)となっているからです。被害者に過失のある場合に過失相殺の規定(民法418条、722条2項)が適用もされます。

紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

蛍光灯移設作業中に感電

2016.12.31.Sat.10:24
社労士

 連載している労働安全衛生広報の2016年6月15日号、「蛍光灯移設作業中に感電」を取り上げています。事案は、洋菓子工場のレイアウト変更のため、蛍光灯の移設作業を行っていた被災者が、配線を圧着ペンチで結線しようとして感電したというものです。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *災害調査
  *是正勧告書
  *気候と労働者災害
  *感電事故と安全配慮義務

等について解説をしてます。

 
 今回は、感電事故と安全配慮義務についての裁判例の部分を紹介していま。


弁護士


 本件では、低圧活線作業を労働者に行わせるにあたり、絶縁用保護具を着用させていなかったことが安全配慮義務違反の内容となると思われます。また、電気が一般的に危険なものであることが知られているのに、労働者が電源を遮断するために専務に連絡を入れないまま、また、絶縁用保護具を着用しないまま結線作業を行ったことは、一見すると労働者にも過失があるようにも見えます。しかし、電気の危険性を十分認識しないままであったのは、特別教育が実施されていなかったからとも考えられ、過失相殺があっても、それほど大きなものではないと思われます。
 活線に触れたために感電をした事故について、これまでも損害賠償請求が認められた判例があります。
 西松建設ほか事件(東京地判平22.3.19判例時報2078号57頁)では、東京電力(Y3)から水力発電所の新設工事のうち土木工事(放水路上口工事)を請け負った元請会社(Y1)からその土木工事を下請受注した下請会社(Y2)の労働者Xがハンマードリルでコンクリート吹付面に穿孔する作業をしていたところ、ハンマードリルに付属するケーブルの被覆損傷があったために、このケーブルの損傷部分に接触して感電して転倒した事故について、XからY1、Y2に対する損害賠償請求が認めらました。この事件では、発注者である東京電力(Y3)は労働者に直接の指示を与えて作業をさせていたという事情が認められないとして発注者の損害賠償責任は否定されましたが、元請会社Y1の従業員で当該工事の現場代理人であった工事事務所長が下請会社の労働者を含めて労働者に指揮をしていました。そこで、この判決は、上記労働安全衛生法20条3号、労働安全衛生規則336条(配線等の絶縁被覆の損傷を防止する等の措置)を引用して、元請会社Y1及び下請会社Y2には、「原告との間の労働契約上あるいはこれに準ずる法律関係上、原告に対し、本件ハンマードリルを含め、その使用に供する工具の安全性を点検し、これを確保する義務」があるとし、「その使用に供すべき工具等による労働災害を的確に防止するには、それらが実際に使用に供されるようになった後にも、事業者たる両被告において、適宜その安全性を確保する等の措置を講ずべき義務があることも当然と言える。」と判断しています。そして、Y1、Y2「両被告の、ハンマードリルを含めた電動工具の点検方法が十分でなかったことは明らかである。・・・電動工具を現場に持ち込んだ後も、ただ作業員の始業前点検のみに工具の安全性等の確保を委ねるのではなくある程度の時間をかけて定期的な点検を行う必要があったのであり、これを行っていなかった両被告による電動工具の点検体制には、やはり不備があったというべきである。」として、Y1及びY2には、「原告が使用した本件ハンマードリルの安全性を確保等する義務を負いながら、このための措置を怠ったものといえ、安全配慮義務の違反があり、また、不法行為(共同不法行為)上の過失があるというべきである。」としています。なお、この事件ではケーブルの損傷が容易には発見できないものであったことなどから、原告Xの過失相殺は否定されています。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

受動喫煙被害を申告した派遣労働者

2016.12.31.Sat.10:12
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年2月15日号、「受動喫煙被害を申告した派遣労働者」を取り上げています。事案は、女性派遣労働者が派遣先で受動喫煙被害にあっているというものです。

この中では
  *受動喫煙
  *改正安衛法
  *受動喫煙防止対策
  *派遣労働者の安全衛生
  *是正勧告書
  *受動喫煙と労働災害及び安全配慮義務
  
等について解説をしてます。

 
 今回は、この中から、受動喫煙と労働災害及び安全配慮義務についての部分を紹介します。


弁護士


 受動喫煙の危険性から労働者の健康を保護する義務のあることは、これまでの判例でもは認められています。しかし、現実に損害賠償請求が認められた例は、判例集に登載されているもののなかでは1件だけのようです。
江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件、東京地判平16.7.12判例タイムズ1275号231頁)は、地方公共団体が、一定の範囲内において受動喫煙の危険性から職員の生命及び健康を保護するよう配慮する義務を負っているところ、受動喫煙による急性障害が疑われる旨の診断書を提示して善処を申し入れているにもかわらず、必要な措置を取らなかったとして5万円の慰謝料請求を認めています。
 そのほか、いくつか損害賠償請求の事案はあるのですが、一般論として受動喫煙の防止について安全配慮義務のあることは認められているものの、安全配慮義務違反があるとして損害賠償が認められたケースは、これまでのところ、判例集には見当たりません。受動喫煙が問題となった最近の裁判例として、積水ハウス事件(大阪地判平27.2.23労働経済判例速報2248号3頁)がありますが、これは、労働者が、勤務先で恒常的に受動喫煙を強いられていたのに会社が受動喫煙策を講じなかったため受動喫煙章及び化学物質過敏症にり患したとして会社に対して損害賠償を請求した事件です。裁判所は、会社側が事務所内を禁煙として休憩室内にビニールののれんやカーテン等で仕切られた喫煙スペースを設置するなどの分煙措置を講じ、従業員に対しては喫煙所や喫煙スペースで喫煙するよう指示指導しており、労働者の受動喫煙対策の申入れについても対応していたとして、「原告が、被告での勤務において、受動喫煙常態を強いられていたとまでは評することはできないのであって、被告が受動喫煙対策に関する安全配慮義務に違反したとまでは認めることはできない。」と判断しています。そのほか、タクシー乗務員が喫煙車両での乗務により慢性気管支炎にり患したとして、安全配慮義務違反または不法行為に基づいて会社に対して損害賠償請求をした事件でも、損害賠償請求が棄却されています(神奈中ハイヤー(受動喫煙)事件、東京高判平18.10.11労働判例943号79頁)。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

雪のため崩壊した足場とともに墜落

2016.12.31.Sat.09:56
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年1月15日号、「雪のため崩壊した足場とともに墜落」を取り上げています。事案は、被災者が木造新築工事現場で、降雪していたにもかかわらず、足場を組み、点検をしていたところ、メッシュシート上に積った雪の重みで足場が倒壊したため足場上の被災者も足場とともに転落したものです。。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *足場先行工法に関するガイドライン
  *災害調査
  *是正勧告書
  *「強風」「大雨」「大雪」
  *自然災害と安全配慮義務

等について解説をしてます。

 
 今回、自然災害と安全配慮義務についての裁判例の一部を紹介します。


弁護士


  使用者には、就労中あるいは使用者の管理下にある状況の下で自然災害が発生した場合の労働者の生命身体に対する安全配慮義務があります。本件のように足場を組んで高所作業をする場合、そもそも墜落・転落の危険を伴います。自然災害が発生しても労働者の生命健康を維持するよう配慮することが安全配慮義務です。また、安全配慮義務がもともとは信義則上の義務であるために、労働関係にとどまらず、学校での事故、旅館での事故等でも問題となります。ここでは、自然災害が発生した場合の労働者に対する安全配慮義務が問題となった判例を見てゆきましょう。
  厳密には労働者に対する関係のみではありませんが、集中豪雨の場合について判断された事例(高松高判昭63.1.22判例時報1265号31頁)があります。これは、高知県香美郡土佐山田町重藤地区で集中豪雨によって追廻山南斜面で土砂崩れが発生し、民家に流入する土砂の除去と排水作業に従事していた消防団員1名が再び生じた土砂崩れによって生き埋めとなり、消防署員や消防団員が地元住民らに協力を求め、約150名がその救出作業を行っている最中、高さ約90メートル、幅170メートルにわたってさらに追廻山が崩壊して約10万立方メートルの土砂が流出し、消防団員と地元住民60名が生き埋めになって死亡したという事故に関するものです。死亡した消防団員及び住民の遺族が国賠法1条に基づき土佐山田町および高知県に対して損害賠償請求をしました。原告側は、災害対策本部の副本部長や消防団の副団長には緊急連絡体制を整備するなどの監視体制を整える義務や崩壊前駆現象が発生した時点で救助作業員などを避難させるべき注意義務があるのにこれを怠ったなどと主張しましたが、追廻山の南斜面の大崩落の発生が予見できる状態ではなかったとして、請求は棄却されました。ここでは、予見可能性があったかなかったが結論を分けています。
 また、2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に関して生じた事件に対する判例がいくつかあります。
七十七銀行女川支店事件(仙台地判平26.2.25、仙台高判平27.4.22判例時報2258号68頁)では、銀行支店屋上を超えるような大津波の予見可能性がなかったとして、安全配慮義務違反が否定されました。この判決は、「被告は、本件被災行員ら3名が使用者又は上司の指示に従って遂行する業務を管理するに当たっては、その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。」として、一般的には安全配慮義務のあることを認めましたが、具体的事案の下では、安全配慮義務違反があったとは認められませんでした。
 この事件は、地震後、海岸から約100メートルの距離にあった銀行の支店建物(2階建で屋上の高さが10メートル、その一部にある塔屋(電気室)含めると13.5メートル)の屋上に避難をしていた労働者(派遣労働者を含む)が支店建物屋上を超える20メートル近くの巨大津波に飲み込まれて死亡したという事件です。この事件では、屋上に避難するよう指示した支店長の行為が問題となりました。地震後、支店屋上に避難するよう支店長が指示したのが午後2時55分ころ、避難完了が午後3時5分ころで、当時の津波到着予想時刻は午後3時、予想された津波の高さは6メートルでした。気象庁による津波の予想は3時14分ころには10メートルに変更され、NHKのテレビ放送でテロップが流れ、3時21分にはエフエム仙台のラジオ放送で報道されていました。しかし、これらの時刻は、既に津波到着予想時刻を過ぎている時間帯です。裁判所は、「初期の高さ6mとする予報を、これを超える高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見しうる情報」はなく、「その他、午後3時過ぎころまでに発表された情報において、事前に想定されていた高さを超えて本件屋上を超えるほどの高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見しうる情報があったと認めることはできない。」とし、支店長が「本件地震発生後、本件屋上への避難を指示し、直ちにより高い避難場所であるC山への避難を指示しなかったことについて、被控訴人(銀行)に安全配慮義務違反があったと認めることはできない。」と判断しています。
 他方、自動車教習所の事件(仙台地判平27.1.13判例時報2265号69頁)では、損害賠償が認められています。この事件では、地震発生後に自動車教習所の教習生が教習所からの送迎バスに乗車中あるいは徒歩で帰宅中に津波で死亡した事件と、教習所が従業員に避難指示をしないまま勤務を継続させて勤務中に津波に巻き込まれて従業員が死亡した事件が併合されています。教習所は海岸から約750メートル離れた場所にあり、最寄りの海岸付近には高さ6mを超える海岸堤防が整備されていました。気象庁は、午後2時49分に宮城県に予想される波の高さ6mとして大津波警報(第1報)、午後3時14分に高さ10mとする大津波警報(第2報)、午後3時30分に高さ10m以上とする大津波警報(第3報)を出しており、消防本部は午後2時55分ころから、消防車で「津波警報が出されました。坂元中学校に避難してください。」と県道相馬亘理線(教習所はこれに面している)を2往復して広報しています。教習所では、午後3時30分ころにようやく教習生を送迎用車両に分乗させて送ることとし、準備ができ次第出発した(2名は徒歩)が、津波に巻き込まれて死亡し、さらに3時50分から59分ころまでの間に教習所にも津波が到来して、従業員(学校長を含む)が死亡しています。
 この事件で、裁判所は、第1報の段階では津波が襲来することを予見することはできなかったが、遅くとも避難先まで特定して避難を促す消防車による広報が行われた時点では、教習所付近にも津波が襲来する事態を具体的に予期できたと判断しています。そして教習所を運営する法人に、教習生及び従業員に対する安全配慮義務違反を認めています。
 これらの裁判例から言えることは、予測可能性がポイントとなることです。自然災害から労働者を保護することも安全配慮義務の一つです。しかし、安全配慮義務違反があるかどうかの判断は具体的判断です。ですから、予見可能性のない場合、安全配慮義務違反がないと判断されることもあるのです。七十七銀行女川支店事件では屋上を超えるような大津波の予見可能性がないと判断されましたが、これが自動車教習所事件のように消防車が避難先を明示して避難を呼び掛けていたのであれば結論が逆になったかもしれません。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

寄宿舎火災で5名負傷

2016.12.31.Sat.09:39
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2015年12月15日号、「寄宿舎火災で5名負傷」を取り上げています。事案は、土木工事業者の事業場に附属する2階建ての寄宿舎で、夜間火災が発生し、逃げようとした労働者4名が火の粉を浴びて火傷し、また、逃げるため2階から飛び降りた労働者1名が足を骨折したものです。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *重大災害
  *災害調査
  *是正勧告書
  *望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドライン
  *寄宿舎火災の刑事責任と民事責任

等について解説をしてます。

 
 今回は、その中で寄宿舎火災の刑事責任の部分を紹介します。


弁護士


この建設業附属寄宿舎規程は、火災などの防止のための措置義務と、火災などが発生した場合の被害を防止するための措置義務を規定していますので、現実に労働者等に被害が発生した場合には、この違反が業務上過失致死罪(刑法211条1項)の「過失」の内容となることがあります。
 建設会社の作業員用宿舎で深夜に出火し、この宿舎の2階で就寝中の作業員8名が焼死したという事案について、会社が労基法違反に問われ、代表取締役(宿舎の管理統轄者)及び取締役工事総務部長兼第一工事部長(宿舎の防火及び寄宿労働者の管理全般の担当者)がそれぞれ労基法違反及び業務上過失致死に問われた事件で、会社に罰金刑を科し、代表取締役及び取締役に禁固刑を科した判決があります(甲野組事件、横浜地判平7.10.30判例時報1575号151頁)。
 この事件では、代表取締役及び取締役においては、①この宿舎の2階部分について、「適正に配置され、かつ容易に屋外の安全な場所に通じる2以上の避難階段を設けず」(建設業附属寄宿舎規程8条1項後段)、代表取締役においては、さらに②「火災その他非常の場合、寄宿する者にこれをすみやかに知らせるための警鐘、非常ベル、サイレンその他の警報装置を設けなければならないのに、これを設けなかった」(建設業附属寄宿舎規程11条)点で労基法96条に違反し、119条1号に該当するとされています。また会社は、121条1項の両罰規定により処罰をされています。
 他方、業務上過失致死における「過失」の内容としては、「宿舎2階所室及び廊下部分につき、避難階段、窓及び自動火災報知機等必要な構造、設備を設置しないまま、漫然、同宿舎2階居室部分に労働者を寄宿させ続けた」点をあげています。
この判決では、代表取締役や取締役には、「適正に配置され、かつ、容易に屋外の安全な場所に通じる2以上の避難階段、外気と有効に通じる窓及び自動火災報知機等必要な構造及び設備を設置し、これを有効なものとして維持管理するなどして、出火した場合、早期にこれを寄宿労働者に覚知せしめ、同人らが安全な場所に避難できるよう万全の措置を講ずるか、同宿舎2階居室部分に寄宿する労働者を同宿舎3階に移動させるなどして、同宿舎2階居室部分に寄宿させないようにし、もって火災発生時における寄宿労働者の生命身体を安全に確保すべき業務上の注意義務」があったのにこれを怠ったとしているのです。
ここでは、労基法96条における措置義務(建設業附属寄宿舎規程8条、11条)が、「業務上過失」における注意義務の内容となっていることがわかります。これは、建設業附属寄宿舎規程が寄宿舎における災害を事前に防止するため、予想される危険を除去するために事業者に措置義務を課しているからです。

 紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和


サイロ内の砂崩壊で被災した派遣労働者

2016.12.31.Sat.09:20
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2015年11月15日号、「サイロ内の砂崩壊で被災した派遣労働者」を取り上げています。事案は、被災者(派遣労働者)が、生コンクリート(以下「生コン」という。)製造プラントのサイロ内で砂を掻き落とす作業をしていたところ、堆積していた砂が突然崩壊したため落下し、砂に埋まり、肋骨を骨折したものです。

この中では
  *サイロ内の砂の崩壊災害
  *派遣の場合の安衛法の適用
  *災害時監督
  *是正勧告書
  *派遣労働者に対する安全配慮義務

等について解説をしてます。

 
 その中で、今回は、派遣労働者に対する安全配慮義務を紹介します。


弁護士


  派遣労働者を雇用するのは派遣元です。従って、派遣元は労働契約の当事者として派遣労働者に対して安全配慮義務を負います(労働契約法5条)。
 しかし、安全配慮義務を負うのは、労働契約の当事者としての使用者だけではありません。安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件、最3小判昭50.2.25労働判例222号13頁)ですので、労働契約の当事者としての使用者に限定されません。下請会社の労働者に対する元請会社の安全配慮義務も認められています(大石塗装・鹿島建設事件、最1小判昭55.12.18労働判例359号58頁)。
派遣労働の場は、指揮命令をするのは派遣先ですし、就労場所の施設の管理をするのも派遣先です。前述したように、労働者が就労するにあたっての危険防止措置の義務のあるのは派遣先です。従って、派遣労働者の場合、派遣先が安全配慮義務を負うことになります。
 では、派遣元は安全配慮義務を負わないのでしょうか。そうではありません。
建設工事で地上約8メートルの足場から地上に転落した障害を負った労働者が元請会社、下請会社、孫請会社(派遣先)、派遣元会社(一次派遣先)、直接の使用者(一次派遣元)に対して損害賠償を請求した事件で、元請会社、孫請会社(派遣先)、派遣元会社(一次派遣先)、直接の使用者(一次派遣元)の安全配慮義務違反があるとして、損害賠償責任が認められた事件があります(エム・テックほか事件、高松高判平21.9.15労働判例993号36頁)。
 また、偽装請負(実態は派遣であるが法形式は請負の形態をとっていた)における請負人(派遣元)の労働者が、注文主企業(実態は派遣先)の指揮命令下で就労していた際、過重な労働によってうつ病を発症し、これが原因で自殺したという事件について、派遣先会社には、労働者の「業務の実情を把握し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」とし、派遣先会社に代わって当該労働者の業務上の指揮監督権限を有する派遣先会社の従業員であり当該労働者を指揮命令していた上司(チーフ)には、過重な労働等が行われることを放置し、この注意義務に違反した点に過失があると判断し、派遣先会社には民法715条の使用者責任があるとしています。また、この判決は、派遣元会社については、「当該派遣労働者の就業の状況を常に把握し、過重な業務等が行われるおそれがあるときにはその差し止めあるいは是正を受役務者(注 派遣先のこと)に求め、また、必要に応じて当該派遣労働者についての労働者派遣を停止するなどして、派遣労働者が過重な業務に従事することなどにより心身の健康を損うことを予防する注意義務を負う」とし、この注意義務違反があったと判断しています(アテスト(ニコン熊谷製作所)事件、東京高判平21.7.28労働判例990号50頁)。この事件の一審(東京地判平17.3.31労働判例894号21頁)では、安全配慮義務違反であると同時に不法行為でもあると判断していますが、控訴審では不法行為であると判断されていて、安全配慮義務違反は判断されていません。
 これらの判例からは、労働者派遣の場合、安全配慮義務や注意義務は、派遣元にも派遣先にもあり、しかし、その内容がそれぞれの法律関係を踏まえて派遣元と派遣先では安全配慮義務や注意義務の内容が異なり、双方に安全配慮義務や注意義務の違反がありうることがわかります。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

化学反応により発生した塩素ガス

2016.12.31.Sat.08:52
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2015年9月15日号、「化学反応により発生した塩素ガスによる中毒」を取り上げています。事案は、スポーツクラブ内のプール施設において契約社員が、プールの水を殺菌するための消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムの入っているタンクへ、ポリ塩化アルミニウムを誤り注入したことから、塩素ガスが発生し、本人を含め労働者3名と利用者2名が塩素中毒になったものです。

この中では
  *重大災害
  *塩素ガスの有害性等について
  *災害調査
  *是正勧告書
  *次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害の防止
  *有害物質と安全配慮義務

等について解説をしてます。

 
 今回、特定化学物質をめぐって安全配慮義務が問題となった裁判例をいくつか紹介していますが、その中のジャムコ立川工場事件、東京地八王子支判平17.3.16を紹介します。


弁護士


 航空機の機内設備製造修理会社の労働者が内装品の燃焼試験業務に従事して、慢性気管支炎、中枢神経機能障害等にり患したとして損害賠償請求をした事件があります(ジャムコ立川工場事件、東京地八王子支判平17.3.16労働判例893号65頁)。この事件では、シアン化水素(第2類9)、一酸化炭素(第3類2)、二酸化硫黄(第3類5)、フッ化水素(第2類28)、塩化水素(第3類3)が発生するおそれがあり、試験装置の排気装置を正常に機能するようにする義務、試験室の換気設備を完備する義務、効果的な保護具を支給する義務、安全に配慮した作業工程を作成し適切な作業管理をする義務、安全な作業をするための従業員教育を行う義務、健康診断などをして適切に健康管理をする義務があるのに、会社はこれらの義務を怠ったと判断されています。

紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

ブラックバイト③

2016.12.29.Thu.02:18
社労士

労働基準広報の2016年4月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の2つの質問に答えています。

① 当社は飲食業の店舗を全国展開している企業です。大学生等のアルバイトも多数雇用しております。今回ある店舗で、社員の調理長が学生アルバイトに対してパワハラをしたということで問題となり、労働局のあっせんに持ち込まれています。調理長は自分が見込んだ学生アルバイトを調理師として一人前になるように教育したと言っています。ただ、そのやり方が、「ばか」「ふざけんな」といった罵詈雑言を浴びせたり、また時には野菜の切れ端を投げつけたりしたということです。こんな言動を繰り返された学生アルバイトはパニック障害を発症して学業にも支障をきたすことになったことから、友人が心配して本人を連れて総合労働相談コーナーに行ったということです。
また、現在、病院の治療費については労災請求をされています。
今回、調理長は自分が受けてきた調理師としての教育を行ったのだから問題はないとして店長も特段パワハラについての意識をしなかったため、問題を大きくしてしまったと思われます。
まだ、労働局のあっせんや労災認定の結論は出ていませんが、各店舗にパワハラの防止やパワハラに起因した精神障害の労災についての周知徹底を本社として始めなければならないと思っております。その時の留意点をご教授ください。

② 当社は、○○を拠点としてディスカウントストア―を数十店舗経営している企業です。深夜も営業しており、交替要員として学生アルバイトも多く使用しております。昨今景気がよくなったせいか、人手不足の状態が続いています。特に学生アルバイトについは、思うように確保できなくなってきています。また、せっかく雇った学生アルバイトも当社より良い条件のところがあればすぐに辞めていき困っています。そこで、できたら、辞める学生アルバイトに対して「新しいアルバイトを紹介するまでは、辞めることはできない。もし、辞めるのであれば新たに人を雇うときに必要な経費をアルバイト代から差し引く」というルールをつくりたいと思いますが、このようなルールを作るとことは、可能でしょうか?


このうち、今回は、②の質問の箇所を紹介します。

*有期雇用契約の途中解約


社労士 

 本件の場合、まず、学生アルバイトと会社とでどのような労働契約を締結していたか問題となります。学生アルバイトの場合、有期契約の場合が多いのでしょうから、それを前提として考えることにします。就業規則に、契約期間途中であっても14日の予告期間を置けば退職できる旨の定めがある場合には、それに従って退職できることになります。しかし、有期の労働契約の場合、就業規則や労働契約で特段の定めがない場合、民法では「やむを得ない事由」がある場合には「直ちに契約の解除をすることができる」とあります(628条)。これは、有期の雇用契約の場合、契約で特段の定めがないときには、契約期間の途中で解雇をすることもできないし、労働者の側から退職することもできないという意味ですね。


弁護士  

そうです。民法では、有期の雇用契約を契約期間中に解除するには、使用者側の解雇であっても、労働者側の退職であっても、「やむを得ない事由」を必要とするのです。使用者側からする解雇については労働契約法17条1項が適用され、これは強行規定ですので、「やむを得ない事由」がなくても解雇できるとの就業規則の規定があってもそれは無効になりますが、労働者側からの退職に関する側面では民法628条は任意規定です(ただし、反対説あり)ので、就業規則や労働契約で、やむを得ない事由がなくても予告期間を置きさえすれば退職が可能となっていれば、その就業規則が適用されます。


社労士
  

それでは、「やむを得ない事由」というのはどのようなものですか?


弁護士 

 労働者側からの退職について言えば、病気で働けなくなった、家族の介護をしなければならなくなったといった場合です。使用者が生命身体に危険を及ぼすような労働をさせたとか、賃金を支払わない場合もそうでしょう。先ほどの質問にあったように、激しい罵倒を浴びせられたと言ったような場合も「やむを得ない事由」にあたります。ただ、他に良い条件のアルバイト先があるために期間途中で退職するということでは、「やむを得ない事由」にはあたりません。


 社労士   

期間を定めて働いている契約の途中で、自分の側の理由で一方的に辞めると、損害賠償責任が発生することがあることになりますが、どの位の賠償が考えられるのですか?


弁護士
   

その場合の賠償額は、残りの期間働かなかったことによって、実際に会社が失った利益ですが、会社は賃金を支払わなくてすんでいるので、その差額は通常はそれほど大きなものではないですね。


*「新しいアルバイトを紹介するまでは、辞めることはできない」というルール


社労士
   

これが、「やむを得ない事由」があっても新しいアルバイトを紹介するまではやめることができないという意味であれば、期間の定めのある雇用契約でも「やむを得ない事由」がある場合には解除することができるとの民法628条に違反しますね。民法628条が労働者側からの退職(辞職)の要件を緩和できるかどうかに関しては強行規定であるか任意規定であるかは見解が分かれていますが、「やむを得ない事由」がある場合であっても退職できないとのルールは無効となります。また、そのようなルールは労働基準法第5条の趣旨にも反することになります。


弁護士   

退職を思いとどまらせるための説得が禁止されているわけではありませんが、このルールを押し付けて辞めさせないとなれば、それが不法行為となって損害賠償請求権が発生する場合もあると思います。


*「辞めるのであれば新たに人を雇うための経費をアルバイト代から差し引く」というルール


社労士   

このようなルールは、労働基準法第24条の全額払いの原則に反することになると思います。辞める前に既に働いた分の給与は、会社は全額支払わなければなりません。


弁護士  

 そうですね。このようなルールを設けることは、今まさに問題となっているブラックバイトということになってしまうと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

ブラックバイト②

2016.12.29.Thu.02:11
社労士

労働基準広報の2016年3月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の3つの質問に答えています。

① アパレルメーカーの販売部門の統括責任者です。当社は販売部門の社員に社員割引で自社製品を買わせて、それを着用して当社の製品販売を行わせております。また、大学生等のアルバイトも多いのですが、同様に製品の買い取りをさせています。今回ある店舗で、社員の店長が学生アルバイトに買い取りノルマを課して無理やり高額の製品を買わせたことでトラブルとなりました。昨今ブラックバイトが問題となっていて、その一形態に自社製品を無理に買わせるということがありました。自腹購入は、社員割引があるので、喜んでいる社員もいますが、学生アルバイトに自社製品の購入させるのをやめた方がよいのでしょうか?自腹購入はどこまでであれば許されるのか、ご教授ください。

② 当社は比較的高級な和食レストランのチェーン店を運営しております。各店舗では、学生アルバイトも多く働いております。食器も高価なものが多いので、取扱いに気を付けるように注意をしておりますが、よく破損します。少し注意をしてもらうためにも、これから5枚以上割ったら5000円の「罰金」を支払ってもらうようなルールを作りたいと思います。昨今学生アルバイトの労働条件については、取り締まりが厳しくなったと聞いております。このようなルールをつくることは問題となるのでしょうか?

③ 当社は、学習塾を複数経営しております。塾では集団指導も個別指導も実施しております。先日、その中の一つの塾から、複数の学生アルバイトと賃金の対象となる労働時間をめぐってトラブルが発生しているとの連絡を受けました。具体的には、授業記録を作成した時間や事前の約束なく突然訪ねてきた父母への対応時間分の賃金の支払いをしなかったというものです。講師の労務管理については、本社も指導していますが、基本的には塾長に任せております。今後、本社から、他の塾長たちも含めて賃金やその前提となる労働時間についての指導をしなければと思っております。その際に、留意すべきことをご教授ください。


このうち、今回は、①の質問の箇所を紹介します。

*全額払いの原則


社労士 


 ご質問の自腹購入ですが、学生アルバイトが、自らの本来の自由意思で購入する場合には問題にならないと思いますが、無理やり買わされたとなれば問題ですし、労働者の本来の自由な意思に基づかないで、その代金を給与から差し引くことは、労基法24条の全額払いの原則に反することになりますね。


弁護士

 労働基準法24条は、賃金の全額払いを定めています。これは、仮に労働者に使用者に支払うべき債務があったとしても、使用者側から賃金と相殺してはいけないということでもあります(関西精機事件、最二小判昭31.11.2民集10巻11号1413頁、日本勧業経済界事件、最大判昭36.5.31民集15巻5号1482頁)。労働者の生活の基盤である賃金を確実に受給させることが全額払いの原則の趣旨だからです。そうでなければ、労働者が支払うべき義務があるかどうか争いがある場合にまで、使用者が勝手に賃金から控除して強制的に支払わせることが可能になってしまうからです。


*労働者の自由意思に基づく控除


社労士 


 賃金からの控除が本来の労働者の自由意思に基づくものであれば許容されていますね。


弁護士 

 労働者が使用者に負担する債務を賃金から控除することは、労働者と使用者の合意があれば可能との考え方もありますが、労使の力関係上、労働者がやむなく合意をするという場合もあります。そこで、労働者との合意に基づく相殺の場合、単に労働者との合意があっただけで賃金からの控除が承認されるわけではなく、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」にのみ許容され、その「同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ客観的に行われなければならない」とされています(日新製鋼事件、最二小判平2.11.26労働判例584号6頁)。なお、この判例については、全額払いを定める労基法に違反する以上は、いくら労働者の合意があっても、一方的控除はできないとの有力な反対説があります(菅野和夫『労働法第10版』305頁)。ご質問の事例では、判例に従えば労働者の自由意思による合意があれば、賃金からの差し引きは可能となりますが、「買い取りノルマを課して無理やり高額の製品を買わせた」ということであれば、そもそもその購入契約の効力が問題となりますし、賃金からの差し引きは、労基法24条違反となる可能性が高いでしょう。


*自社製品の購入の問題


社労士 

 「販売部門の社員に社員割引で自社製品を買わせて、それを着用して当社の製品販売を行わせ」ている点はどうですか?


弁護士  

自社製品を労働者に買わせていることについてですが、さきほどの相殺の場合と同様の枠組みが適用されると思います。つまり、労働者の本来の自由意思が要求され、「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要だということです。接客には自社製品を着用することが義務付けられているのであれば、その購入義務が労働者にあるということですが、そうなると、自社製品の買い取りが労働者の本来の自由意思に基づくものかどうかが問題となります。制服とは異なり、当該商品に汎用性があること(権利の側面でも実際の側面でも職場外での着用も可能であること)、社員割引で安価に取得できること、もちろん返還の義務もないことなどから、あらかじめこれを合意して入社をしたのであれば、自由意思に基づくことを認定する合理的客観的状況が一応はあるとはいえるでしょう。しかし、それが賃金のかなりの部分を占めてしまい、労働者の経済生活を脅かすようなことがあれば、やはり自由意思に基づくものかどうかに疑問が出てきます。一定のノルマを課して、それに達しない労働者に購入を義務付ける旨の就業規則規定があったとすれば、それは合理性を欠き、無効になると思われます(労契法7条)。また、これを定める労働契約条項があっても、その効力には疑問があります。これらのノルマを課してそれに達しない労働者に購入を義務付ける条項や規定は、本来使用者が負担すべきリスクを労働者に転嫁するものだからです。


*アルバイトの場合


社労士 

アルバイトの場合にはどうですか?


弁護士 

アルバイトの場合も枠組みとしては同様と思います。自社製品を安く買えるので喜んでいるアルバイトがいるかもしれませんが、逆に必要もない商品を無理やり買わされて困っているアルバイトもいるのではないでしょうか。ですから、使用者の圧力の下で無理やり買わせることは問題です。例えば、「自社製品を買わない」ことを理由とする解雇はできないでしょう。そうすると、「買わなければ解雇する」と言って無理やり買わせた場合、購入の意思表示が詐欺または脅迫によるものとなる可能性もあります(民法96条)。また、アルバイトであれば、賃金が正社員と比べて少額でしょうから、賃金のうちどれだけの部分が自社製品の購入に充てられるかもまた、「自由な意思に基づく」合意かどうかを判断する要素でもあるでしょう。


社労士 

自腹購入が全面的に否定されるわけではありませんが、労働者の自由な意思とこれを根拠づける合理的客観的事情が必要ということですね。学生アルバイトに自社製品の購入を義務付けることをどうするかについては、上記のリスクを十分踏まえて慎重に判断することが必要ですね。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和






ブラックバイト①

2016.12.29.Thu.01:54
社労士

労働基準広報の2016年2月1日号の

     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~

ですが、ブラックバイトについての下記の3つの質問に答えています。

① 自社ブランドの商品販売で全国展開している企業の労務担当をしております。
昨今、ブラックバイトが問題となっていて、厚生労働省も大学生等にアルバイトに関する調査を実施したと聞いております。当社はアルバイトを多く雇用しているので、このような問題のある雇用と指摘されないように気を付けなければと思っています。そこで、そもそも、ブラックバイトとはどのようなことを言うのかご教授ください。

② 当社は各地のショッピングモールにテナントとして入り当社の製品を販売しております。テナントでは、アルバイトも多いのですが、時々労務トラブルが発生しており、本社から指導に入ることもあります。
厚生労働省が実施した「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査」の結果では、「労働条件の明示」や「明示された労働条件」に問題があったものが多かったと聞いております。今後、各テナントの責任者を指導していきたいと思いますが、労働条件の明示に係る問題についてご教授ください。

③ 大学の学生課で学生の相談にのっております。
学生の相談の中に、アルバイト先でのシフトの強要により、休むこともできないことから過重労働になり、疲労により大学の授業が受けられなくなるケースもあります。
また、それを断ると一方的にシフトを削るという嫌がらせもされるということです。
シフトについては、問題も多いようですので、その点ご教授ください。

このうち、今回は、②の質問の箇所を紹介します。


*労働条件の明示


社労士 

 労働基準法第15 条では、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、そのうち労働契約の期間に関する事項、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項、所定労働時間を超える労働の有無に関する事項などは、これを書面により明示しなければならないとされています(労働基準法施行規則5条2項、3項)。
調査結果では、労働条件通知書の有無については、先述のとおりですが、労働基準法第15条で明示が求められている労働条件のうち、書面や口頭で明示された割合が低いものは、年次有給休暇の日数(有無を含む)17.1%、退職に関する事項26.6%、所定時間を超える労働(残業)の有無37.4%、休憩時間47.6%でした。また、賃金については、必要な明示がなされていないものが、 賃金の締日及び支払日について32.5%、 賃金の支払方法(振込か現金払いなど)について29.1%、 賃金額(アルバイト代の単価)について 23.0%がありました。


弁護士  

使用者に明示義務のある労働条件のなかでも、①労働契約の期間、②就業の場所及び従事すべき業務、③始業終業の時刻・休憩時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇など労働時間に関する事項、④賃金の決定・計算・支払の方法・賃金の締切日及び支払の時期などの賃金に関する事項、⑤退職に関する事項は書面による明示が求められます(労規則5条)。また、学生アルバイトの場合、正社員と比べて労働時間が短い(1週間の所定労働時間が通常の労働者よりも短い)ことが多いでしょうから、そのような場合はパートタイム労働法も適用されることが考えられ、⑥昇給、退職手当及び賞与の有無についても書面による明示が必要となります(パートタイム労働法6条1項、同規則2条)。ただ、この⑥については、ファックス、メール(出力により書面化できるもの)でも可能です。このように書面での明示が義務付けられているのは、労働条件があいまいになるのを防ぐためです。


社労士  

 労基法に定める労働条件の明示義務に違反した場合、刑事処罰の規定もあります(労基法121条1号)。労働契約の基本である労働条件、特に労働時間や賃金の明示がないとなると、使用者と労働者の思惑や期待が異なってしまって、トラブルの元になります。ですから、上記①ないし⑥にあたらない事項であっても、できるだけ書面で明示することが望ましいといえるでしょう。


*募集内容と実際の労働条件が異なる場合


社労士  

募集広告で言っていた労働条件と実際の労働条件が異なっていた場合もあります。事務職での募集広告だったのが面接に行って見ると現場作業だったとか、残業はないとの募集だったのに実際には残業があったというような場合があります。また、もらった賃金が募集広告よりも少なかったという場合がありますが、このような場合には民事上はどうなるのでしょうか?


弁護士 

 募集広告で確定的に賃金等の労働条件を提示し、面接その他の機会にもこれと異なる労働条件を提示されないまま就労がなされたという場合、それが労働条件となります。しかし、募集広告と異なる労働条件のある労働契約書や労働条件通知書を提示されてそれを労働者が受け入れた場合には、それが募集広告と異なっていたとしても、労働契約書や労働条件通知書で示されたものが労働条件となると思われます。賃金見込額として求人票に記載されていた金額が実際の賃金と異なっていた場合に差額賃金請求が認められなかった事例があります(八州事件、東京高判昭58.12.19労働判例421号33頁)。ですから、募集広告や求人票の記載がそのまま労働条件となるとは限りません。民事的には、労働契約の締結に際して明示された労働条件で労働契約が成立するということになります。しかし、募集広告や求人票に記載された労働条件について、これに反する特段の条件提示がされなかったという場合には、求人票に記載されたとおりの条件で労働契約が成立したとされることもあります(丸一商店事件、大阪地判平10.10.30労働判例750号29頁)。


社労士  

労働契約の締結にあたっての労働条件明示が重要ということですね。会社から見れば、募集広告や求人票にいったん記載した以上は、その後会社の事情が変更してそれらで示した労働条件を維持できなくなった場合、労働契約締結の段階でちゃんと明示しておかないと、募集広告や求人票での記載に拘束されるリスクがあるということですね。



紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和





 

過労死白書

2016.12.29.Thu.01:26
社労士

労働基準広報の2016年12月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


ですが、過労死白書についての下記の二つの質問に答えています。


① 「過労死白書」がまとまったとのニュースを見ました。一昨年施行された過労死等防止対策推進法に基づく初めての「白書」ということですが、この白書のポイントとそれを踏まえて企業として留意すべきところについて、ご教授ください。


② 当社では、長時間労働を行っている部署があります。
「過労死等防止対策白書」が最近でましたが、その中で「長時間労働の削減のための周知・啓発の実施」の記載中に「平成27 年から月100 時間超の残業を把握したすべての事業場や過労死等を発生させた事業場に対する監督指導を行うこととした。」とされています。この基準からすれば、当社も対象になるのではないかと思います。新聞等を見ると、長時間労働を行っている会社が送検されたという記事もあります。対象になるとどのような監督がされるのでしょうか?

今回は、①の質問の白書のポイントの箇所を紹介します。


*過労死等防止対策白書



社労士  

 ご質問の「過労死白書」というのは、平成28年10月7日に厚生労働省が公表した「平成27年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(以下、「過労死等防止対策白書」)」のことですね。これは、同日、政府が、過労死等防止対策推進法に基づき、閣議決定したものです。


弁護士  

 この「過労死等防止対策白書」は、平成26年に成立・施行された過労死等防止対策推進法(以下「過労死防止法」)の第6条で、「政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならない」と規定されていることから、今回この報告書として白書が策定され、初めての国会報告になるものです。


*過労死等防止対策白書のポイント


弁護士  

今回の白書のポイントはどのようになっていますか?


社労士 

 ポイントは以下の4点と発表されています。
①過労死等防止対策推進法に基づく初の白書
②過労死等防止対策推進法が制定に至るまでの経緯などについて記載
③過労死等の実態を解明するための調査研究(労働者の労働時間だけでなく、生活時間の状況等の労働・社会面からみた調査や、労災認定事案のデータ ベース構築など)など、平成27年度に行われた過労死等防止対策の取組に ついて記載
④過労死等防止対策に取り組む民間団体の活動をコラムとして紹介
  また、内容は、第1章 過労死等の現状 、 第2章 過労死等防止対策推進法の制定 、 第3章 過労死等の防止のための対策に関する大綱の策定、第4章 過労死等の防止のための対策の実施状況 に加えて資料編の順でまとめられています。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和




電通事件最高裁判決

2016.12.29.Thu.00:58

社労士

労働基準広報の2017年1月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


ですが、過労死白書についての下記の質問に答えています。



 ある業界団体の役員をしております。仕事の性質上長時間労働が多い業界ですが、過労死・過労自殺等も会員企業で発生しており、業界全体でこの問題を取り組む必要があるのではないかとの意見も出ております。そこで、過労死に関係することについては注意をしているのですが、平成28年10月7日に過労死等防止対策推進法に基づく初めての「過労死白書」が閣議決定されたということで、これに目を通しました。白書の中で「国が取り組む重点対策」に「啓発」があり、国民に向けた周知・啓発として「過労死等防止対策シンポジウム」を国が開催するとされています。これは毎年11月に開催されるということを知り、平成28年の第3回シンポジウムに参加しました。そこでは、大きく新聞等で報道されている有名企業で働いていた娘さんが過労自殺されたお母さんの悲痛なコメントがあり胸を打ちました。この事案は、厚生労働省が強制捜査を行ったことで、業界でも話題に上り、皆注視しているところです。この企業については、過労死のリーデイングケースとなった有名な判例があると聞いております。今後の業界の勉強会でも周知したいので、ご教授ください。また、厚生労働省が今までに増して厳正な対処をしているのはどうしてなのかということもご教授ください。


今回は、「過労死のリーデイングケースとなった有名な判例」について紹介します。


*電通事件最高裁判決


社労士  
 
ご質問で言及されている、娘さんが過労自殺されたお母さんの話は、電通で勤務していた女性の新入社員が昨年12月に長時間労働の結果自殺したという事件で、労基署も今年の9月末に自殺の原因が長時間の過重労働であるとして、労災認定したものです。新聞各紙に報道されました。電通では過去にも過労自殺の問題で裁判がありましたね。


弁護士  

1991年(平成3年)に入社2年目の男性社員が長時間労働が原因となって自殺したことについて遺族が損害賠償請求をした事件がありました。この事件の最高裁判決は、過労自殺について会社の使用者責任(民法715条)を認めた初めての最高裁判決として有名です(電通事件、最2小判平12.3.24労働判例779号13頁)。


*事件の内容

社労士  

どんな事件だったのですか?


弁護士 


 長時間にわたる残業を恒常的に行っていた労働者が、過重な業務負担によってうつ病に罹患し自殺したという事案で、うつ病発症等に関する知見を考慮して、過重な業務とうつ病の罹患、うつ病の罹患と自殺との間に相当因果関係があると判断され、会社に対する損害賠償請求が認められた事例です。


*長時間労働の程度


社労士 

 「長時間労働」といっても、どの程度のものだったのですか?


弁護士 


 判決文によれば、大手広告代理店Y社に平成2年4月に入社した労働者Aは、入社当初から長時間にわたって残業を行うことが恒常的状態でした。この状況は次第に悪化して、深夜早朝まで残業したり徹夜することもあるようになったのですが、Aの上司は、Aが深夜早朝まで残業したり徹夜したりすることのあることに1991年(平成3年)3月ころには気づいており、同じ年の平成3年7月頃にはAの健康状態が悪化していることに気づいていました。しかし、平成3年3月頃に「業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで、Aの業務の量等を適切に調整するための措置を取ることはなく、かえって、同年7月以降は、Aの業務の負担は従前よりも増加することとなりました。その結果、Aは心身ともに疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬ころにはうつ病にり患し、同月27日、うつ病によるうつ状態が深まって、衝動的、突発的に自殺をするに至った」というものです。



最高裁判決までの経過


社労士 

 事件の発生が1991年(平成3年)で最高裁判決が2000年(平成12年)となると、ずいぶんと時間がかかっていますね。


弁護士  

 この事件は、Aの両親X1とX2が、平成5年(1993年)にY会社に対し、民法415条(安全配慮義務違反)または709条(不法行為)と715条(不法行為の使用者責任)を根拠として、Xの死亡による損害賠償請求をしたものですが、第1審の判決が平成8年(東京地判平8.3.28労働判例692号13頁)、控訴審の判決が平成9年(東京高判平9.9.26労働判例724号13頁)です。地裁判決は、過重労働とうつ病のり患、うつ病のり患と自殺との間の因果関係を認め、Aの上司について安全配慮義務違反を内容とする過失を認め、Y会社の使用者責任を認めて、約1億2600万円の支払いをY会社に命じています。これに対してY会社が控訴し(Xも付帯控訴)ました。控訴審も、この判断は維持したのですが、30%の過失相殺の類推適用を認めたのです。


*事件の問題点



社労士  

 そうすると、この事件では、①過重労働と自殺との間の因果関係、②使用者の安全配慮義務(注意義務)、③過失相殺が問題となったということになりますね。


*①過重労働と自殺との因果関係


弁護士 


 そうです。①の過重労働と自殺との因果関係については、地裁、高裁、最高裁とも認めています。最高裁は、「うつ病は、抑うつ、制止等の症状から成る情動性精神障害であり、・・・うつ病にり患した者は、健康なものと比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。」、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状態が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」との一般論を上記の具体的状況に当てはめて労働者Aの過重労働と自殺との間に相当因果関係があると判断した原判決を是認しています。


社労士  

相当因果関係にあると判断したのであれば、労災認定もされていたのではないですか?


弁護士  


この最高裁判決のあった事件では、労災請求がされないまま、民事損害賠償請求訴訟が行われています。当時の労災認定実務が厳しかったために、民事損害賠償請求訴訟を出したのかもしれません。


社労士 

 確かに、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平11.9.14基発544号)が出されたのが平成11年(1999年)ですから、この事案の事件が発生したよりもずっと遅い時期ですね。まだ確たる判断基準のなかった時期です。それに、「故意による負傷、疾病障害若しくは死亡」については保険給付を行わないとの労災保険法12条の2の2第1項の規定について、「業務上の精神障害によって、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」との解釈(基発545号)がされたのは、「判断指針」が出されたのと同じ日の平11年9月14日のことです。


*②使用者の安全配慮義務(注意義務)

弁護士  

それから、この事件で、労働者の遺族は、安全配慮義務違反または使用者責任(民法715条)を法律上の根拠に請求したのですが、裁判所は、地裁、高裁、最高裁ともに、上司の不法行為責任と会社の使用者責任で判断をしています。


社労士  

どうして安全配慮義務違反で認めなかったのですか?


弁護士 

 原告側は、安全配慮義務違反又は使用者責任で損害賠償請求をしているので、どちらかが認められれば、他方は判断する必要がなくなるのです。そこで、裁判所は、不法行為責任(使用者責任)で請求を認めたのです。判断の内容は、次のとおりです。
    「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」との一般論を述べ、Aの上司が、「Aが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らかなったことにつき過失があるとして、一審被告の民法715条に基づく損害賠償責任を肯定した」原審の判断は正当であるとしています。


社労士 

 「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と言っているのは、安全配慮義務と内容は同じではないですか?


弁護士  

そうですね。実質的には安全配慮義務を不法行為における注意義務として表現したものと同じだと思います。


社労士  

労働安全衛生法65条の3は、「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するよう努めなければならない。」と規定しています。この「作業を適切に管理」のなかには、「一連続作業時間と休憩時間の適正化、作業量の適正化等が含まれる。」と解釈されています(労働調査会編『労働安全衛生法の詳解改訂4版』728頁)。この規定は直接的にはこれに違反したからと言って処罰されるような効力を持たない努力義務を定めるものですが、この規定が安全配慮義務や注意義務の内容になっていると読むこともできますね。


弁護士  

そうですね。この規定が安全配慮義務の内容となっていると考えることもできます。


*③過失相殺


社労士  


電通事件最高裁判決の論点③の過失相殺の点ですが、控訴審判決はどのような判断をしたのですか?また、最高裁判決はどう判断したのですか?


弁護士  

控訴審判決は、労働者が「真面目で責任感が強く、几帳面かつ完璧主義で、自ら仕事を抱え込んでやるタイプで、能力を超えて全部自分でしょい込もうとする行動傾向があったものであり、太郎にこのようないわゆるうつ病親和性ないし病前性格が存したこと」と、同居している両親がAの勤務状況や経過つ状況をほぼ把握していたのに、その改善をとるなどの措置をとっていないことなどを根拠として、3割の過失相殺・素因減額を認めました。
     最高裁は、労働者の性格を理由とする減額については、「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。」「労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。」という一般論を述べたうえで、「Aの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったとは認めることはできない」として、Aの性格を理由とする減額をできないと判断しています。


社労士 

 両親の落ち度として控訴審判決が判断した点はどうですか?


弁護士
 

 両親と同居していたとはいえ、両親がAの勤務状況を改善する措置をとり得るとは容易にいうことはできない。」と判断されています。


社労士  

最高裁判決の結論は、過失相殺について判断するために、東京高裁への破棄差戻しとなりましたが、差戻し後はどうなったのですか?


弁護士 

 東京高裁で和解が成立したとのことです。金額は1審判決を大幅に上回るものでした(佐久間大輔『労災・過労死の裁判』193頁)。


社労士  


この電通事件は、過労自殺について、その後の判例をリードする判例であったといえます。


弁護士  

特に、使用者には「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断した点、労働者の性格が個性の多様性の範囲を外れるものでない限りは、素因減額の要素とはならないとの判断は重要だと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和




 
 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。