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電通事件最高裁判決

2016.12.29.Thu.00:58

社労士

労働基準広報の2017年1月1日号の
 
     弁護士&社労士がズバリ解決!
                   ~労働問題の「今」~


ですが、過労死白書についての下記の質問に答えています。



 ある業界団体の役員をしております。仕事の性質上長時間労働が多い業界ですが、過労死・過労自殺等も会員企業で発生しており、業界全体でこの問題を取り組む必要があるのではないかとの意見も出ております。そこで、過労死に関係することについては注意をしているのですが、平成28年10月7日に過労死等防止対策推進法に基づく初めての「過労死白書」が閣議決定されたということで、これに目を通しました。白書の中で「国が取り組む重点対策」に「啓発」があり、国民に向けた周知・啓発として「過労死等防止対策シンポジウム」を国が開催するとされています。これは毎年11月に開催されるということを知り、平成28年の第3回シンポジウムに参加しました。そこでは、大きく新聞等で報道されている有名企業で働いていた娘さんが過労自殺されたお母さんの悲痛なコメントがあり胸を打ちました。この事案は、厚生労働省が強制捜査を行ったことで、業界でも話題に上り、皆注視しているところです。この企業については、過労死のリーデイングケースとなった有名な判例があると聞いております。今後の業界の勉強会でも周知したいので、ご教授ください。また、厚生労働省が今までに増して厳正な対処をしているのはどうしてなのかということもご教授ください。


今回は、「過労死のリーデイングケースとなった有名な判例」について紹介します。


*電通事件最高裁判決


社労士  
 
ご質問で言及されている、娘さんが過労自殺されたお母さんの話は、電通で勤務していた女性の新入社員が昨年12月に長時間労働の結果自殺したという事件で、労基署も今年の9月末に自殺の原因が長時間の過重労働であるとして、労災認定したものです。新聞各紙に報道されました。電通では過去にも過労自殺の問題で裁判がありましたね。


弁護士  

1991年(平成3年)に入社2年目の男性社員が長時間労働が原因となって自殺したことについて遺族が損害賠償請求をした事件がありました。この事件の最高裁判決は、過労自殺について会社の使用者責任(民法715条)を認めた初めての最高裁判決として有名です(電通事件、最2小判平12.3.24労働判例779号13頁)。


*事件の内容

社労士  

どんな事件だったのですか?


弁護士 


 長時間にわたる残業を恒常的に行っていた労働者が、過重な業務負担によってうつ病に罹患し自殺したという事案で、うつ病発症等に関する知見を考慮して、過重な業務とうつ病の罹患、うつ病の罹患と自殺との間に相当因果関係があると判断され、会社に対する損害賠償請求が認められた事例です。


*長時間労働の程度


社労士 

 「長時間労働」といっても、どの程度のものだったのですか?


弁護士 


 判決文によれば、大手広告代理店Y社に平成2年4月に入社した労働者Aは、入社当初から長時間にわたって残業を行うことが恒常的状態でした。この状況は次第に悪化して、深夜早朝まで残業したり徹夜することもあるようになったのですが、Aの上司は、Aが深夜早朝まで残業したり徹夜したりすることのあることに1991年(平成3年)3月ころには気づいており、同じ年の平成3年7月頃にはAの健康状態が悪化していることに気づいていました。しかし、平成3年3月頃に「業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで、Aの業務の量等を適切に調整するための措置を取ることはなく、かえって、同年7月以降は、Aの業務の負担は従前よりも増加することとなりました。その結果、Aは心身ともに疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬ころにはうつ病にり患し、同月27日、うつ病によるうつ状態が深まって、衝動的、突発的に自殺をするに至った」というものです。



最高裁判決までの経過


社労士 

 事件の発生が1991年(平成3年)で最高裁判決が2000年(平成12年)となると、ずいぶんと時間がかかっていますね。


弁護士  

 この事件は、Aの両親X1とX2が、平成5年(1993年)にY会社に対し、民法415条(安全配慮義務違反)または709条(不法行為)と715条(不法行為の使用者責任)を根拠として、Xの死亡による損害賠償請求をしたものですが、第1審の判決が平成8年(東京地判平8.3.28労働判例692号13頁)、控訴審の判決が平成9年(東京高判平9.9.26労働判例724号13頁)です。地裁判決は、過重労働とうつ病のり患、うつ病のり患と自殺との間の因果関係を認め、Aの上司について安全配慮義務違反を内容とする過失を認め、Y会社の使用者責任を認めて、約1億2600万円の支払いをY会社に命じています。これに対してY会社が控訴し(Xも付帯控訴)ました。控訴審も、この判断は維持したのですが、30%の過失相殺の類推適用を認めたのです。


*事件の問題点



社労士  

 そうすると、この事件では、①過重労働と自殺との間の因果関係、②使用者の安全配慮義務(注意義務)、③過失相殺が問題となったということになりますね。


*①過重労働と自殺との因果関係


弁護士 


 そうです。①の過重労働と自殺との因果関係については、地裁、高裁、最高裁とも認めています。最高裁は、「うつ病は、抑うつ、制止等の症状から成る情動性精神障害であり、・・・うつ病にり患した者は、健康なものと比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。」、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状態が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」との一般論を上記の具体的状況に当てはめて労働者Aの過重労働と自殺との間に相当因果関係があると判断した原判決を是認しています。


社労士  

相当因果関係にあると判断したのであれば、労災認定もされていたのではないですか?


弁護士  


この最高裁判決のあった事件では、労災請求がされないまま、民事損害賠償請求訴訟が行われています。当時の労災認定実務が厳しかったために、民事損害賠償請求訴訟を出したのかもしれません。


社労士 

 確かに、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平11.9.14基発544号)が出されたのが平成11年(1999年)ですから、この事案の事件が発生したよりもずっと遅い時期ですね。まだ確たる判断基準のなかった時期です。それに、「故意による負傷、疾病障害若しくは死亡」については保険給付を行わないとの労災保険法12条の2の2第1項の規定について、「業務上の精神障害によって、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」との解釈(基発545号)がされたのは、「判断指針」が出されたのと同じ日の平11年9月14日のことです。


*②使用者の安全配慮義務(注意義務)

弁護士  

それから、この事件で、労働者の遺族は、安全配慮義務違反または使用者責任(民法715条)を法律上の根拠に請求したのですが、裁判所は、地裁、高裁、最高裁ともに、上司の不法行為責任と会社の使用者責任で判断をしています。


社労士  

どうして安全配慮義務違反で認めなかったのですか?


弁護士 

 原告側は、安全配慮義務違反又は使用者責任で損害賠償請求をしているので、どちらかが認められれば、他方は判断する必要がなくなるのです。そこで、裁判所は、不法行為責任(使用者責任)で請求を認めたのです。判断の内容は、次のとおりです。
    「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」との一般論を述べ、Aの上司が、「Aが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らかなったことにつき過失があるとして、一審被告の民法715条に基づく損害賠償責任を肯定した」原審の判断は正当であるとしています。


社労士 

 「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と言っているのは、安全配慮義務と内容は同じではないですか?


弁護士  

そうですね。実質的には安全配慮義務を不法行為における注意義務として表現したものと同じだと思います。


社労士  

労働安全衛生法65条の3は、「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するよう努めなければならない。」と規定しています。この「作業を適切に管理」のなかには、「一連続作業時間と休憩時間の適正化、作業量の適正化等が含まれる。」と解釈されています(労働調査会編『労働安全衛生法の詳解改訂4版』728頁)。この規定は直接的にはこれに違反したからと言って処罰されるような効力を持たない努力義務を定めるものですが、この規定が安全配慮義務や注意義務の内容になっていると読むこともできますね。


弁護士  

そうですね。この規定が安全配慮義務の内容となっていると考えることもできます。


*③過失相殺


社労士  


電通事件最高裁判決の論点③の過失相殺の点ですが、控訴審判決はどのような判断をしたのですか?また、最高裁判決はどう判断したのですか?


弁護士  

控訴審判決は、労働者が「真面目で責任感が強く、几帳面かつ完璧主義で、自ら仕事を抱え込んでやるタイプで、能力を超えて全部自分でしょい込もうとする行動傾向があったものであり、太郎にこのようないわゆるうつ病親和性ないし病前性格が存したこと」と、同居している両親がAの勤務状況や経過つ状況をほぼ把握していたのに、その改善をとるなどの措置をとっていないことなどを根拠として、3割の過失相殺・素因減額を認めました。
     最高裁は、労働者の性格を理由とする減額については、「企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。」「労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。」という一般論を述べたうえで、「Aの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったとは認めることはできない」として、Aの性格を理由とする減額をできないと判断しています。


社労士 

 両親の落ち度として控訴審判決が判断した点はどうですか?


弁護士
 

 両親と同居していたとはいえ、両親がAの勤務状況を改善する措置をとり得るとは容易にいうことはできない。」と判断されています。


社労士  

最高裁判決の結論は、過失相殺について判断するために、東京高裁への破棄差戻しとなりましたが、差戻し後はどうなったのですか?


弁護士 

 東京高裁で和解が成立したとのことです。金額は1審判決を大幅に上回るものでした(佐久間大輔『労災・過労死の裁判』193頁)。


社労士  


この電通事件は、過労自殺について、その後の判例をリードする判例であったといえます。


弁護士  

特に、使用者には「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断した点、労働者の性格が個性の多様性の範囲を外れるものでない限りは、素因減額の要素とはならないとの判断は重要だと思います。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和




 
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