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雪のため崩壊した足場とともに墜落

2016.12.31.Sat.09:56
社労士


 連載している労働安全衛生広報の2016年1月15日号、「雪のため崩壊した足場とともに墜落」を取り上げています。事案は、被災者が木造新築工事現場で、降雪していたにもかかわらず、足場を組み、点検をしていたところ、メッシュシート上に積った雪の重みで足場が倒壊したため足場上の被災者も足場とともに転落したものです。。

この中では
  *労働者死傷病報告
  *足場先行工法に関するガイドライン
  *災害調査
  *是正勧告書
  *「強風」「大雨」「大雪」
  *自然災害と安全配慮義務

等について解説をしてます。

 
 今回、自然災害と安全配慮義務についての裁判例の一部を紹介します。


弁護士


  使用者には、就労中あるいは使用者の管理下にある状況の下で自然災害が発生した場合の労働者の生命身体に対する安全配慮義務があります。本件のように足場を組んで高所作業をする場合、そもそも墜落・転落の危険を伴います。自然災害が発生しても労働者の生命健康を維持するよう配慮することが安全配慮義務です。また、安全配慮義務がもともとは信義則上の義務であるために、労働関係にとどまらず、学校での事故、旅館での事故等でも問題となります。ここでは、自然災害が発生した場合の労働者に対する安全配慮義務が問題となった判例を見てゆきましょう。
  厳密には労働者に対する関係のみではありませんが、集中豪雨の場合について判断された事例(高松高判昭63.1.22判例時報1265号31頁)があります。これは、高知県香美郡土佐山田町重藤地区で集中豪雨によって追廻山南斜面で土砂崩れが発生し、民家に流入する土砂の除去と排水作業に従事していた消防団員1名が再び生じた土砂崩れによって生き埋めとなり、消防署員や消防団員が地元住民らに協力を求め、約150名がその救出作業を行っている最中、高さ約90メートル、幅170メートルにわたってさらに追廻山が崩壊して約10万立方メートルの土砂が流出し、消防団員と地元住民60名が生き埋めになって死亡したという事故に関するものです。死亡した消防団員及び住民の遺族が国賠法1条に基づき土佐山田町および高知県に対して損害賠償請求をしました。原告側は、災害対策本部の副本部長や消防団の副団長には緊急連絡体制を整備するなどの監視体制を整える義務や崩壊前駆現象が発生した時点で救助作業員などを避難させるべき注意義務があるのにこれを怠ったなどと主張しましたが、追廻山の南斜面の大崩落の発生が予見できる状態ではなかったとして、請求は棄却されました。ここでは、予見可能性があったかなかったが結論を分けています。
 また、2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に関して生じた事件に対する判例がいくつかあります。
七十七銀行女川支店事件(仙台地判平26.2.25、仙台高判平27.4.22判例時報2258号68頁)では、銀行支店屋上を超えるような大津波の予見可能性がなかったとして、安全配慮義務違反が否定されました。この判決は、「被告は、本件被災行員ら3名が使用者又は上司の指示に従って遂行する業務を管理するに当たっては、その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。」として、一般的には安全配慮義務のあることを認めましたが、具体的事案の下では、安全配慮義務違反があったとは認められませんでした。
 この事件は、地震後、海岸から約100メートルの距離にあった銀行の支店建物(2階建で屋上の高さが10メートル、その一部にある塔屋(電気室)含めると13.5メートル)の屋上に避難をしていた労働者(派遣労働者を含む)が支店建物屋上を超える20メートル近くの巨大津波に飲み込まれて死亡したという事件です。この事件では、屋上に避難するよう指示した支店長の行為が問題となりました。地震後、支店屋上に避難するよう支店長が指示したのが午後2時55分ころ、避難完了が午後3時5分ころで、当時の津波到着予想時刻は午後3時、予想された津波の高さは6メートルでした。気象庁による津波の予想は3時14分ころには10メートルに変更され、NHKのテレビ放送でテロップが流れ、3時21分にはエフエム仙台のラジオ放送で報道されていました。しかし、これらの時刻は、既に津波到着予想時刻を過ぎている時間帯です。裁判所は、「初期の高さ6mとする予報を、これを超える高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見しうる情報」はなく、「その他、午後3時過ぎころまでに発表された情報において、事前に想定されていた高さを超えて本件屋上を超えるほどの高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見しうる情報があったと認めることはできない。」とし、支店長が「本件地震発生後、本件屋上への避難を指示し、直ちにより高い避難場所であるC山への避難を指示しなかったことについて、被控訴人(銀行)に安全配慮義務違反があったと認めることはできない。」と判断しています。
 他方、自動車教習所の事件(仙台地判平27.1.13判例時報2265号69頁)では、損害賠償が認められています。この事件では、地震発生後に自動車教習所の教習生が教習所からの送迎バスに乗車中あるいは徒歩で帰宅中に津波で死亡した事件と、教習所が従業員に避難指示をしないまま勤務を継続させて勤務中に津波に巻き込まれて従業員が死亡した事件が併合されています。教習所は海岸から約750メートル離れた場所にあり、最寄りの海岸付近には高さ6mを超える海岸堤防が整備されていました。気象庁は、午後2時49分に宮城県に予想される波の高さ6mとして大津波警報(第1報)、午後3時14分に高さ10mとする大津波警報(第2報)、午後3時30分に高さ10m以上とする大津波警報(第3報)を出しており、消防本部は午後2時55分ころから、消防車で「津波警報が出されました。坂元中学校に避難してください。」と県道相馬亘理線(教習所はこれに面している)を2往復して広報しています。教習所では、午後3時30分ころにようやく教習生を送迎用車両に分乗させて送ることとし、準備ができ次第出発した(2名は徒歩)が、津波に巻き込まれて死亡し、さらに3時50分から59分ころまでの間に教習所にも津波が到来して、従業員(学校長を含む)が死亡しています。
 この事件で、裁判所は、第1報の段階では津波が襲来することを予見することはできなかったが、遅くとも避難先まで特定して避難を促す消防車による広報が行われた時点では、教習所付近にも津波が襲来する事態を具体的に予期できたと判断しています。そして教習所を運営する法人に、教習生及び従業員に対する安全配慮義務違反を認めています。
 これらの裁判例から言えることは、予測可能性がポイントとなることです。自然災害から労働者を保護することも安全配慮義務の一つです。しかし、安全配慮義務違反があるかどうかの判断は具体的判断です。ですから、予見可能性のない場合、安全配慮義務違反がないと判断されることもあるのです。七十七銀行女川支店事件では屋上を超えるような大津波の予見可能性がないと判断されましたが、これが自動車教習所事件のように消防車が避難先を明示して避難を呼び掛けていたのであれば結論が逆になったかもしれません。


紹介
 *社労士  森井博子 元労働基準監督署長
 *弁護士  森井利和

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